朝 の 始 ま り (5)

朝9時から始まる朝礼の前に、15分間の瞑想の時間と投薬がデイ・ルームで行 なわれる。瞑想は8時10分に全員が集合したら、「瞑想はじめ!」の号令と共に 各自が目を閉じて瞑想する。(のような雰囲気を醸し出している)デイ・ルームの 一部がナース・ス…

朝 の 始 ま り (4)

「おはよう、散歩に行くんだ。どのくらいの時間歩くの?」 ピンクが「たった 10分くらいだけどけっこう気持ちいいよ。ヤマちゃんもビギナーズが終わった ら一緒に歩こうよ。」と言ってくれたので、俺は「ビギナーズって何?」とピン クに訊いてみた。彼女…

朝 の 始 ま り (3)

俺のトレーの中身は周りとはちょっと違った。みんなは薄い食パン2枚にジャム とチーズが付き、それにパック牛乳があった。俺のトレーにはパン1枚にバナナが 1本、それにカップに入った薬のような香りのする紅色のぬるい飲み物だ。これを 紅茶と呼んだら世…

朝 の 始 ま り (2)

デイ・ルームに行ってみると、けっこうみんな集まっていた。だが、昨日の夕食 の時の人数を考えるとその半分もいない。デブもブラックも来ていなかった。 ラジオ体操の音楽が流れ始めた。ラジオ体操なんて何年ぶりだろう、と思いなが ら身体を動かした。目線…

朝 の 始 ま り (1)

病院の朝はラジオ体操から始まる。もっとも俺は夜ほとんど眠れないので朝の 始まりは院内に響く起床の放送「みなさん、おはようございます。」という清々し くない男のダミ声から始まる。5時50分だったが年寄りが多いせいか、その時間 にはほとんどみんな…

院内食事風景(2)

合宿所のような食事風景の中で俺が驚いたのは、みんなとにかく食べるのが速 い。お互いに会話もなく黙々と食べ、食べ終えるとそれぞれに空の器をのせた お膳を持って後片付けへ向かう。向かった先は、デイ・ルームの隅のスペースで 大きなバケツが6コ置かれ…

院内食事風景(1)

夕礼、夕食はみんなデイ・ルームに集合した。休憩時にはみんな思い思いに腰掛 けていた椅子だったが、夕礼からは各自座る席が決められているようだった。 俺が周りを見ながらボ~と立ち尽くしていると、忙しそうな看護師が俺に早口で 座る席をお知えてくれた…

院内ブラブラ歩き(6)

その声の主は向こうから俺の方にやって来て、「私の名前はももこ。 あなたの名前は何ていうの?」と訊いてきた。「俺?ヤマダだよ。」 「じゃあ今度からヤマちゃんって呼ぶね。私はみんなからモモちゃんって呼ばれて いるからよかったらそう呼んでね。」そう…

院内ブラブラ歩き(5)

院内3階の端から端まで歩いてもたいした距離にはならない。俺がゆっくり歩き ながら見物しても10分と掛からなかった。それでも今日はいろいろな経験をした せいか、身体より精神的なダメージの方が遙かに大きかった。B棟のベランダに出 て外の空気を吸っ…

院内ブラブラ歩き(4)

看護師たちはみんな鍵を腰からぶら下げていた。ナース・ステーションの出入り から診療室、処置室や階段に通じるドア、エレベーター、それに給食用のエレベー ターや面会室などまで至る所が施錠してあった。それを看護師たちが一々合い鍵で 開閉していた。一…

院内ブラブラ歩き(3)

院内をブラブラしているのは俺だけではないのだ。年配のおじいちゃんは小綺麗 な洋服を着込んで看護師に言った。「今から家へ帰らんにゃならん。ちょっと鍵を 開けてくれ。」おじいちゃんの孫娘のような歳の、その看護師は軽くあしらう。 「はいはい、家の人…

院内ブラブラ歩き(2)

テレビを見て楽しそうではなかった理由はすぐにわかった。画面は明らかにNHK だとわかった。院内ではNHK限定で活動時間外のみ映し出されるようだ。つまり、 みんなが休んでいる昼の時間はNHKもやる気がないようだ。テレビはナース・ス テーションからよく見…

院内ブラブラ歩き(1)

俺は、院内の様子を見ながらブラブラと散策した。とはいえ自由に歩けるのは、 自分のいる3階の廊下や、洗面所、トイレ、それにデイ・ルームという大きなホー ルのような共有スペースだけだった。 デイ・ルームは階の中心に位置し、ナースステーションに面し…

噂のピンク部屋(2)

俺は素直に騒々しい方へ行ってみる事にした。まあ言われなくても好奇心豊かな 俺は行っただろう。部屋を出るついでに窓を開けてみた。デブの言ったとおり窓は 2センチ以上は開かなかった。部屋の出入り口の所のベッドでブチが寝ていた。 俺は彼の方をチラッ…

噂のピンク部屋(1)

俺の向かいのベッドで横になっていたデブが半身を起こしてこっちを見ていた。 「ここは刑務所みたいなものだ。いや刑務所の方がまだマシかもな。」 俺は刑務所の中は知らないが、この部屋は病院とは思えない程に寒かった。 ベッドには薄い布団に2枚の安げな…

こうして俺は豚になった(2)

俺はまだ動揺していた。だって仕方がない。俺は豚になってしまったのだ。 俺は心の中で何度も呟いた。(なんで豚なんだ。なんで豚?なんだ?) 俺は我に返って冊子『入院のしおり』を見た。 (なんだ・・・これは?)しばらく俺の口が閉じることは無かった。…

こうして俺は豚になった(1)

俺は鏡の前で呆然と立ち竦んだ。頭の中の回路が目まぐるしく混乱していた。 こんな時の対応力が僕は弱い。いつもなら動かず静かに思案する。だが今は 対応力なんて関係ない。突然、俺の顔が豚になっていたのだ。誰だって狼狽する だろう。俺は気持ちを少しで…

ここはいったいどこなんだ(5)

俺は机の上に置かれた『入院のしおり』なる冊子を手にして表紙を開いた。 数ページさっと捲って目に留まり手を止めたのは、院内生活の時間割のページだ。 朝5時半の起床に始まって、ラジオ体操、朝食後に早朝散歩、冥想、朝礼と続く。 そして午前中はミーテ…

ここはいったいどこなんだ(4)

俺は気力を奮い立たせ何とか反論した。 「そんな馬鹿げた事は承知できない。俺は肝硬変で入院しただけだ。」 「あなたはここでアルコール依存症の回復治療プログラムを受けてもらいます。」 「そんな事は認められない。俺は肝硬変でアル中なんかではない。」…

ここはいったいどこなんだ?(3)

年配の女が入ってきた。その身なりから看護師だとすぐわかった。 彼女は俺の様子を確認すると枕元に直立して言った。 「気分はどう?少しは落ち着いたかね?」 無論気分がいいわけがない。。俺は仏頂面を決め込んだ。 彼女はそんな俺の神経を逆撫でするよう…

ここはいったいどこなんだ(2)

記憶が朧げながら甦ってきた。だが断続的にしか思い出せない。 入院してすぐに俺はベッドから動けないようにコードのついたピンを 胸元に装着された。 俺が激しく動くとピンが外れ看護師が飛んで来るという寸法だ。 俺は一日のほとんどをベッドの上で過ごし…

『 精 神 病 棟 の 豚 』~ここはいったいどこなんだ?(1)~

気がついたら俺は見知らぬ部屋で横に転がされていた。 「ここはどこだ?俺はいったいどうなったんだ?!」 俺は動揺していた。 確かに最近の数ヶ月はずっと体調不良が続いていた。 どこかが痛むわけではない。ただ全身が重くて怠くて、 何かをしようという気…

ブログなるもの再開します。

去年の一年間は闘病の日々だった。体調不良が長く続きとうとう去年の正月明けから 入院した。検査の結果が重篤な肝硬変だった。僕のはアルコール性肝硬変という事で まずはアル中の治療が必要だということで転院させられた。そこで衝撃的な生活が始0まった。…

芸術の秋の演奏会

9月24日に福岡でデユメイのヴァイオリンコンサートを聴いた。有名なヴァイオリストですが何よりもプログラムに興味魅せられた。ブラームスのソナタ3番にリヒャルトシュトラウスのソナタそれにフランクのソナタだ。本当に素晴らしかった。心から幸せな気…

芸術の秋美術館巡り

この秋は本当に心躍らせている。一番先に予定を計画したのは11月の東京上野で開催される『運慶展』でせっかく東京に行くので演奏会もと思い『ゲバントハウスオーケストラ』で大好きなブラームスのヴァイオリン協奏曲も聴いてくる。10月には1月に事故に…

はりねずみの話(3)

僕はずっとはりねずみが飼いたかった。自宅にはでっかい犬と猫2匹がいるのでお店で飼うつもりだった。我が家には水槽がいくつかある。その中に入れて飼うつもりだった。話は飛躍するが、何故我が家に水槽があるかというと昔魚を飼っていたからだ。思えば昔…

はりねずみの話(2)の訂正

僕は『赤いはりねずみ』の物語で記憶力の問題で大きなミスを犯してしまった。それは最初の2行にあった。 本当の友達はお前を抱きしめてくれるものだよと言って子はりねずみを送り出したと書いたが、これが大きなミスだった。物語の根幹に関わる大きなミスだ…

はりねずみの話(2)

気がついたらかれこれ1ヶ月以上ブログをしていなかった。今年の夏は列島は猛暑やゲリラ豪雨で荒れていた。僕は完全に夏バテで本当に自宅でバテてほとんど食事をしていない。食欲がないというよりどんな食べ物も受け付けない。僕は人生でもそうだが、そんな…

はりねずみの話(1)

僕の店の名前は『ROTEN IGEL』が正式な店名でドイツ語だ。日本語で『赤いはりねずみ』という。ROTENが赤でIGELがはりねずみだ。日本語になるとちょっと誤解される。はり=ねずみと二つの単語からなるから針のあるねずみだと思われやすいのだが、はりねずみは…

2017年子猫物語(4)

子猫物語は前回の(3)で、終了したはずだったが、その後信じられない事態になった。黒猫のお兄ちゃんジジの影響かチビちゃんたちがお店の入り口に置いていた餌を食べに来ているのはいいし僕も陰から見守っていた。ところがチビちゃんたちはしれ〜と店の中…