2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

【調和の霊感】を終えて(4)

居抜き物件のそれまでのお店は、こてこての和風の居酒屋だったが、将来を考えて今度は洋風な居酒屋にする事にした。洋風な居酒屋とはいってもメニューが洋風に変わるものではない。もっとも今までだって和風ではなかったのだが、ようするに今まで通りの和洋…

【調和の霊感】を終えて(3)

今年になって結構店が暇になった。そうなのだ。頑張って料理をつくってもお客さんが来なければする事がない。暇だから新しい料理を開拓してみても、それが余れば無駄になる。毎月のお店の売り上げは減ってきた。それでも不思議なもので粗利という純粋な利益…

【調和の霊感】を終えて(2)

去年の8月に音楽活動の廃業を決めたものの、では何をやっていこうと決まっていた訳ではない。どうしようかと悶々と考える毎日を送った。いろいろと選択肢もあったが、結局居酒屋を始める事にした。なぜ居酒屋なのか?と周囲からは異口同音に訊かれたが、そ…

【調和の霊感】を終えて(1)

先日10月19日に、今年1月から書き始めた音楽ミステリー小説【調和の霊感】を書き終えた。正確に言うと去年書いた小説を、今年ブログに補筆しながら少しずつ載せていったと言うべきなのだろう。初めて書いた小説だったが、改めて文章を書く事は難しいし…

エピローグ(終わり)

(ご愛読ありがとうございました) 1773年、エッセンの修道院長アンヌ、シャルロッテが59歳で亡くなった。 前日の晩、修道院内で演奏会があった翌朝、彼女は眠るように亡くなっていた。 演奏会は当時は珍しかった弦楽四重奏で、彼女はたいそう喜んでい…

アンナとクララ

(前回は私も文章も見苦しくなってすみません) クララは、自分がヴェネチアから脱出できた経緯を今、初めてアンナから聞いた。今日まで、自分が助かったのはアンナとパオラのお蔭だとばかり思っていた。こんなにたくさんの仲間によって助けられた事を、クラ…

アントネッラへの手紙

(私はこんな感じでだらけてます。) 『アントネッラへ 私から手紙が突然に届いて驚いたでしょう。時間 がないから単刀直入に書くわね。 私はあなたがハプスブルク家の貴族関係者の伝手 で、ピエタにやって来たと確信しています。 実は私もそうでした。 あな…

エッセンの修道院で(5)

(ライはいつもこんな風にだらけています。) アンナは冷静に淡々と話を続けた。 「すると私の考え方は反転したわ。ヴェネチア共和国でハプスブルク家を警戒しているのは、ヴェネチアそのものではないかとね。だって絶対君主制のハプスブルク家を共和国のヴ…

エッセンの修道院で(4)

(眠たくなったなあ〜) 「そうよ。ヴィヴァルディ先生はアントネッラの為にフルート協奏曲【五色ヒワ】を作曲したわ。五色ヒワは、顔にある赤い斑点がキリストの受難を表す象徴だと聞いていたけど、実際の先生の曲は素晴らしく美しい曲だった。この曲がなぜ…

エッセンの修道院で(3)

(寝ながらでも読んでね❤) 「ありがとうございます。そうでしたね。私もここへ来て、院長がロートリンゲン・ハプスブルク家に関係の深い方だと知ってビックリしましたわ。もしピエタでそれを知っていたら、私は院長に手を掛けていたかもしれません。本当に…

エッセンの修道院で(2)

(読んでくれてる〜?) 「私もヴィヴァルディ先生に出会えて本当によかったですわ。ただ・・・ピエタには苦くて辛い思い出しかないですけど。」 「あの頃の事はもう忘れなさいって、いつも言っているでしょう。でも今日は、私が思い出させてしまったわね。…

終章(コーダ)・エッセンの修道院で(1)

(いよいよ、最終章です。お楽しみに!) 「あら院長、珍しいですね。ヴァイオリンを出されてるいるなんて。」 「院長と呼ぶのは止めてと、いつも言っているでしょう。アンナいえアンヌと呼んで頂戴。」 「院長をお名前では呼べません。院長は院長ですわ。そ…

ウィーンの共同墓地で(4)

アンナが貧民墓地を後にして歩きだすと、すぐに一人の少年が声を掛けてきた。歳は9歳くらいで教会員らしきガウンを着ていた。 「お姉さん、ヴァイオリンをする人だね。さっき、お墓で祈っていたでしょう。あの人と何か関係があるの?」 「私の先生なんだ。…

ウィーンの共同墓地で(3)

アンナはしばらくの間、泣きながら祈った。そして愛しむように、その小さな墓をゆっくりと両手で撫でていった。その時だった。手の平に何かギザギザとした違和感のある感触があった。よく見るとなにやら薄っすらと字が彫り込まれていた。それを注視したアン…

ウィーンの共同墓地で(2)

貧民病院の共同墓地は雑然としていた。多くの小さな墓が無秩序に配置されていた。名前の彫られていない墓が圧倒的だった。そこをアンナはデンと縫うように歩いた。一つずつの墓を確認しながら歩く事は不可能だし、まさに無駄骨だった。群れた仔羊のような墓…