実習生がやってきた(3)

 俺は思い出した。病院伝説で聞いたことがあったことを。ここの病院では患者を

引き受けるかどうかはその患者の身辺調査をしっかりとやってから決めるそうだ。

つまり、その患者の家族構成、職歴、年収、資産等を調べあげて入院費不払いなど

の金銭的なトラブルが起こらないように、そして病院側に被害が被らないようによ

うにしているようだ。もしその伝説が的外れだとしても、そう遠くに噂の矢は飛ん

ではいないだろう。事実こうして病院の入院患者ファイルの中に俺が約5年間やっ

ていた居酒屋のことが記されてあり、それを実習生にまで見せているのだ。そうな

のだ。精神病院の中では患者にプライバシーはない。見舞客だってその患者の近親

者が許可した者でないと病棟に入れてもらえないのだ。俺なんか見舞いに来てもら

いたい人があったのに、嫁が「そんな人知らないわ。」と言いそうなので、ずっと

一人おとなしく過ごしている。もっとも、その方こそ俺の見舞いに精神病院へ来る

のは嫌だろう。実際、今俺の目の前にいる看護師の卵だって精神病院に偏見を持っ

ていたではないか。俺はその卵ちゃんに俺のファイルの中で他に何が書かれていた

か訊いてみたが、ファイル内の情報は患者に見せてはいけないと言われているから

と拒否された。そして病院の生活はどうか?どんな活動をしているのか?食事はお

いしいか?などくだらないことばかり質問するので、俺はすっかり辟易して黙って

仏頂面を決め込んだ。そう、俺はとっても大人げないのだ。