2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

エピローグ(5)

『みなさん、随分と楽しそうですねえ。本当に羨ましいですよ。」 カウンターの向こうでマスターがコップを洗いながらそう言った。 「マスターも観にこられたらよかったのにね。きっと面白かったと思うわよ。」 「そうですよ。嫁さんのオペレッタを是非マスタ…

エピローグ(4)

「ちょっと待て、ブラマン!あの事だけは言うなよ。なあ頼んだぞ。本当にだぞ。」 「ねえ、ノブチン。あの事、ここで言っちゃっていいかなあ?」 「オロチさんさえよろしければ、私は全くもって構いませんよ。」 「ブラマンさん、俺の知らない事がノブチンと…

エピローグ(3)

そしてオロチの顔を見るや否やその男が言った。 「よおオロチさん、さっき挨拶したばかりなのにまた会いましたね。とは言ったものの、今晩はここにいるであろうと話しながら来たのですけどね。」 「こんばんわ、お二人様。」 「あっ、やっぱりタア子さんもい…

エピローグ(2)

「そうよ、なによ、あのタア子は!私あんなに性格がひどくないわよ。」 「いやいや、私はあのオペレッタを、性格描写が見事に表現されたいい作品だと感心して鑑賞していたよ。」 「だと嬉しいね。僕としてはタア子を主役レベルにして書き上げたつもりだけど…

エピローグ(1)

エピローグ 居酒屋にて 私達はお洒落な居酒屋のカウンターで赤ワインを飲み交わしていた。お相手は勿論タア子だ。こうした付き合いを始めてもう何十年になるのだろうか。彼女とは大学の学友のような関係から、なんとなく恋人として付き合い始め、なんとなく…

カーテンコール(4)

全開の照明の下、最後の場面のセッティングままで出演者の全員が並んで舞台上に立っていた。舞台に向かって左下手側から、イベリコ、イルカさん、神杉静江さん、ノブタにノブチンと並んで、舞台中央付近にタア子とブラマンと赤ハリ先生が並んだ。そしてその…

カーテンコール(3)

赤ハリ先生は元の位置に戻ると、更にビックリするようなパフォーマンスをした。彼は舞台の下手左側に向きを変えると、両手を左右大きく広げた。今度はその両手を頭上高くに挙げた。すると舞台下手袖から大きな犬が赤ハリ先生役の歌手の許へ駆け寄った。当然…

カーテンコール(2)

そしてにこやかに堂々と出てきたのは神杉静江だ。すると会場の雰囲気もがらりと変わった。どこからとなく大きな声援が起きた。 (当然だよな。あれだけ見事なアルトの美声でアリアを歌われちゃあ。他の出演者も敵わないだろうなあ。神杉静江は60半ばの役の…

カーテンコール(1)

オペラやオペレッタの醍醐味は、終焉後の華やかなるカーテンコールにある。場内の熱気ある拍手の中で出演者達が舞台に再び現れて、観客に挨拶をする所謂オペラやオペレッタの慣習だ。その様式は各オペラハウスや演目によって若干異なるが、最近は・・・ 緞帳…

第四幕第一場(10)

【イルカさん】 彼女ですって?ブラマンが? 【神杉静江】 彼女って、その方は女性? 【ノブタ】 しかもその若い女性がブラマン? 【ノブチン】 では本当のブラマン先生は何と呼ばれているの? 【タア子】 赤ハリ先生って呼ばれているのですって。しかも 私…

第四幕第一場(9)

【赤ハリ先生】 あれ?ブラマンはどこにいる?ブラマンがいないではないか。 【舞台上の一同】 どうしたの先生?酔っ払っているの? 【イルカさん】 先生、相当に酔っているのね。 【神杉静江】 あら、そんなに酔っ払っていらっしゃるの? 【ノブタ】 先生こ…

第四幕第一場(8)

【赤ハリ先生】 私が酔っぱらっているのは嬉しいからなのです。信代ちゃんが結婚したなんて、これほど嬉しい事はない。しかもその相手が私の弟子の信田君だとは・・・(小声で)これは嬉しさ半分だ。(場内苦笑) 天国の親友もさぞ喜んでいるだろう。私が天…

第四幕第一場(7)

オーケストラはオーボエソロから、弦楽合奏だけになりリズムを感じられない揺らぎのような音楽に変わった。その中でコントラバスの弦を指でつまんで強く弾く(はじく)ピチカート奏法が耳に残る。恐らく楽譜上の指示だろうが、あまりに強く弾くので弦が当た…

第四幕第一場(6)

拍手は鳴り止んでいなかったが、指揮者は次への曲のタクトを振った。 軽快で楽しいその曲を全団員が演奏していた。つまりこのオペレッタがフィナーレに近づいている事を表していた。そしてそれを象徴するように、赤ハリ先生以外の出演者が次々と舞台袖から現…