エピローグ(5)

『みなさん、随分と楽しそうですねえ。本当に羨ましいですよ。」
カウンターの向こうでマスターがコップを洗いながらそう言った。
「マスターも観にこられたらよかったのにね。きっと面白かったと思うわよ。」
「そうですよ。嫁さんのオペレッタを是非マスターに観て欲しいと思ったのだけど、この店があって来られないのはわかっていたから声を掛けなかったのですよ。ここに今日のパンフレットがあるから、これだけでも目を通してやってください。」
 オロチからカウンター越しにパンフレットを受け取ったマスターは、
「ほお〜、オペレッタ『赤ハリ先生の居酒屋』ですか。」と小声を発し、ニヤニヤしながらページをめくって、少し大きな声で言った。
「この赤ハリ先生って、もしかして私がモデルですか?」
「そうなんです。マスターには内緒で僕が勝手に脚本に登場させました。それにマスターの奥様も素敵な年配の女性の役で登場していますよ。」
オロチがそう言うと、ブラマンがすぐに言い継いだ。
「マスターだけではないのですよ。このお店の名前がそのまま出てくるのです。」
「この店の名前が?」
マスターがそう訊くと、みんなが声を揃えて言った。
「そう、赤いはりねずみで〜す。」
 その後も、赤いはりねずみの店内は会話が途切れることなく深夜遅くまで賑わった。
   (オペレッタ『赤ハリ先生の居酒屋』終わり)