実習生がやってきた(5)
実習生は俺の手を取ると「脈を取らせてください。」と言って自分の腕時計を見
た。俺は少しドキドキした。だって、こんな若い女の子に手首を持ってもらうとは
思ってもみなかったからだ。俺が「今日は実習生が脈拍を測るの?」と訊くと、彼
女は「いえ、私たちは自分が担当している患者さんと同じ部屋の方だけです。」と
言った。「じゃあ、実習中は毎朝貴女が脈を取ってくれるんだ。」と言ったら、彼
女は「はい。」と言った。朝のささやかな楽しみができた。それからの実習中、彼
女は僕が散歩しているとやって来ては一緒に歩いたり、僕が皮細工の作業している
と隣で話し掛けてきたりした。「俺の話ばかり聞いてもつまらんでしょう。他の人
の話もいろいろと聞いてみた方がいいよ。」と言うと彼女は「私たちは担当の人
としか話をしないように言われているんです。」と言った。俺はそれが大学の指
示なのか病院からの指示なのか興味があったが、それを彼女に聞くことはしなかっ
た。あっという間に一週間の実習が過ぎた。最後に俺は彼女から、「ヤマダさん、
退院されたらお酒を飲まないで頑張ってくださいね。」と言われた。俺にはホロ
苦い言葉になった。
*これはフィクションです