2012-01-01から1年間の記事一覧

第二幕第一場(5)

その三日後の日曜日、突然に赤ハリ先生から、今から自宅へ来るようにとのメールがきた。全く迷惑な話だ。あの歳を喰ったお坊ちゃまは、年頃の娘が日曜日をいつでも暇にしているとでも思っているのだろうか、と憤慨していたところへタア子から電話があった。…

第二幕第一場(4)

結局私達は四軒の物件をまわったのだが、赤ハリ先生は終始浮かない顔をしていた。どうやら自分の思っていた物件ではなかったようだ。そもそも赤ハリ先生の思っているような物件がこの世に存在するのだろうか。 バーカウンターのあるお店は近代的な雑居ビルの…

第二幕第一場(3)

空気の読めない無邪気な赤ハリ先生は、「ほう、ありがとうございます。拝見させていただきます。」と言ってから、ほうほう言いながら物件の載ったページをめくっている。イベリコは赤ハリ先生に、 「何かお気に召した物件がありましたか?」と事務的な応対で…

第二幕第一場(2)

イベリコは営業的な笑顔で赤ハリに言った。 「それで、どのような物件をお望みですか?」 「そうですねえ、5席から8席のカウンターがあって、そんなに高級な雰囲気のお店じゃなくていいです。」 「信田様から、居酒屋だと伺っておりますが、5席から8席の…

第二幕第一場 店舗探し

第二幕 第一場 店舗探し 私とタア子は赤ハリ先生と一緒にある不動産屋に来ていた。 「マンションやアパートの賃貸物件と違って、店舗の賃貸物件はリスクが大きいから、素人では不動産屋が信用してくれなくて相手にされないかもしれないし、変な物件を掴まさ…

第一幕第四場(13)

楽しい夜だった。居酒屋のハシゴなんて初めての体験だった。 タア子に対する見方が変わったかもしれない。私が何故タア子と一緒にいるのが、少しだけ理解できたような気がする。私は湯船に首まで浸かりながら、今晩のタア子との楽しいおしゃべりを思い出して…

第一幕第四場(12)

(今日は山ちゃんの51歳の誕生日だそうです。) 代わりに楽しそうだったのがタア子だ。 「私がバックマージンを予想しましょう。多分一品につき半額ね。私達が頼んだ刺身盛りは一品3000円だから1500円がバックマージンよ。そして1500円が店の…

第一幕第四場(11)

『でもおかしいではありませんか。」私はノブタに言った。「だってノブタさんは、その事がわかっているのに何故そんなお店に女性を連れて来たのですか?」 ノブタは私の言葉に明らかに動揺していた。 「いや、そ・・・それは・・・あの〜ブラマンさん、これ…

第一幕第四場(10)

私達は最後にノブタの店に行った。別にノブタが経営している訳ではないし、そのお店には『酔い候』という立派な名前があった。が、ノブタに紹介されたら最後、このお店は今晩からは私達の間で永遠に居酒屋『野豚の店』になったのだった。 私達がその『野豚の…

第一幕第四場(9)

次のお店はおでん専門の屋台だった。というのが、赤ハリがおでんは自分のお店で是非とも出したいと言ったので、私がおでんの人気店を検索して吟味して決めた所だった。 先のタア子の話ではないが、おでんも奥が深い。人気店を検索していたら、例えば大根一つ…

第一幕第四場(8)

ノブタは明らかに狼狽していた。派手な若い女性を連れていたのだ。まさしく『同伴の図』だった。ノブタは向うの席でその女性を座らせて、『何か注文しておいて、すぐ戻るから。』なんて様子を見せてから私達が座っていたカウンター席に来て、私とタア子をお…

第一幕第四場(7)

(若干の漢字変換ミスが出ています。ごめんなさい) タア子は私達に、「ここは期待できるかもね。」と小声で囁くと「ここ空いてますかあ〜?」と大声で空席を確かめてから3つのカウンター席へお坊ちゃまとお嬢さんを誘った。 「同伴とは、夜の女性達が出勤…

第一幕第四場(6)

3軒目のお店は、赤ハリ先生が始めようとしている形態の居酒屋で、実はこのお店を選ぶのが一番苦労した。だって当の赤ハリ先生、どんなお店にしたいのか自分でもまだ具体的にわかっていないみたいなのだ。だから私は、男性が一人で切り盛りしているような小…

第一幕第四場(5)

タア子の楽しい講義はまだまだ続いた。 「例えばカシスオレンジに使うオレンジジュースだけど、赤ハリは普段いくらのオレンジジュースを買うの?」 「さあ、奥さんが買うのでわかりませんが、瓶に入ったジュースです。外出先だとコンビニで150円のペット…

第一幕第四場(4)

その居酒屋はチェーン店ではなく、この辺りでは有名店として多くのお客さんで賑わっていた。 赤ハリ先生がお店のメニューを見ながら言った。 「おっ、結構いい値段ですねえ。このアサリの酒蒸しは900円もするのですね。さっきの店は600円でしたよ。」 …

第一幕第四場(3)

飲み物と付け出しがきてから私達は乾杯した。そして、タア子の講義が始まった。 「例えば、この酢ダコだけど280円するの。ねえ、赤ハリはこの酢ダコに使われているタコの原価はいくらだと思う?」 「う〜ん、200円位ですかねえ・・・」 「ねえ赤ハリ、…

第一幕第四場(2)

最初のお店は、全国にチェーン展開しているリーズナブルな人気店『食の民の家』だった。さすが人気店だけあって、まだ5時半なのに入り口には人がたくさんいた。赤ハリ先生はそこをズカズカと通って奥へ入っていった。それをタア子が追いかけて言った。 「お…

居酒屋巡り

第一幕第四場 居酒屋巡り 週末、私はタア子と一緒に、先生と待ち合わせの約束をした場所へ向かった。そこは犬の銅像が有名な待ち合わせ場所だ。田舎者のお上りさんが待ち合わせるその場所の名を赤ハリ先生から聞いた時は閉口したが、犬好きな赤ハリ先生を思…

第一幕第三場(5)

その日の夜、私のパソコンにノブタからのメールが入っていた。赤ハリプロジェクト会議の最後にみんなでメール交換をしたのだった。私は家に帰って早速パソコンにみんなのメールを登録して、受信したら誰だかわかるようにマークを付けていたのだった。因みに…

第一幕第三場(4)

(こんな景色をいっぱい見てきました。ルナ) 「そうですねえ、5席程度のカウンターがあって、お客さんが入ってきて座ります。私はお客さんにおしぼりを出して、好みのアルコールを出します。それからその飲み物に合うちょっとしたおつまみを出すのです。」…

第一幕第三場(3)

「うちの奥さんは料理が美味いから。」 「美味いから何よ、赤ハリがお店をするのでしょう?」 「お店って言っても居酒屋だからねえ。」 「だから居酒屋でしょう?料理を出すんでしょう?」 「料理って言ってもちょっとした食べ物を出すだけなんだよ。」 「そ…

第一幕第三場(2)

そのタア子の性格を忘れていた私はバカだった。 タア子は赤ハリ先生に対して無礼にも、 「赤ハリは音楽しかやった事がないんでしょう?どうして居酒屋をするという発想になるのかなあ?」などと悪態をついている。私はおもわず助け舟を出した。 「だけど忘年…

赤ハリプロジェクト始動開始

第一幕第三場 赤ハリプロジェクト始動開始 翌日さっそく、私とタア子は赤ハリ先生のお宅へ押しかけた。 玄関から中へ入ると、いつもながら最初に出迎えてくれたのはヨハネスだった。彼は熱烈大歓迎というような嬉しそうな顔をして飛びかかるように私の肩を抱…

第一幕第2場(8)

絶望的な静けさだ。しかもここは場所が悪かった。図書館併設の喫茶店だからかBGMすら流れていない。静寂なだけならまだいい。時折深い溜め息まで漏れ聞こえてきた。 タア子までみんなと一緒に落ち込んでいる。まったくもう・・・しかたがない!私がこの空…

第一幕第二場(7)

そこへまた信田だ。タア子と私の間では彼にあだ名は必要なかった。私達は彼を普通にノブタさんと呼んでいる。だがそれは信田さんではない。私達の中では野豚さんというあだ名が既に成立していたのだ。そのノブタが突拍子もない話を始めた。 「みんなは『赤い…

第一幕第二場(6)

アラ・フォーのノブチンが言った 「私、先生の気持ちがわかるなあ・・・それに先生らしいと思うわ。だってあれだけお酒が大好きな先生ですもの。それに昔からよく料理を作って頂いたわ。ねえ? (えっ、私に振ったの?・・・私そんなに先生の料理を食べた記…

第一幕第二場(5)

(毎回のタイトルに乱れがありました。 謹んでお詫びもうしあげます。) 私は赤ハリ先生が常日頃から言っていた事を思い出していた。 『人前で演奏するって事は緊張する者なのですよ。でも緊張する事とアガル事は違うのです。緊張はした方がいい。演奏に集中…

第一幕第二幕(4)

その時だった。一番年長である神杉静江さんが口を開いた。彼女が「60の手習いでピアノを始めました」と上品に自己紹介をしていたのが5年前の発表会の時だった。 「わたくしは先生よりも年長でしょう。だから気を遣ってくださったと思うのよね。 先日、先…

第一幕第二場(3)

さて、赤ハリプロジェクト第1回目の会議だが皆それぞれに天気の事や最近の気になったニュースや身近な世間話など、所謂当たり障りのない話をしている。タア子はオロチと大学のオーケストラの話をしていた。 私はいよいよ話の核心にみんなを向けさせようと口…

第一幕第二部(2)

私は彼の事を『ラから山多君』と呼んでいた。それは山多君が赤ハリ先生のピアノ発表会で、ハ長調の平易な曲であるにもかかわらず、つまりドミソのいずれの音から始まるべき曲を、なんとラから始めたものだからさあ大変!彼は一人混乱したまま古典派の美しい…