第一幕第四場(12)


(今日は山ちゃんの51歳の誕生日だそうです。)
 代わりに楽しそうだったのがタア子だ。
「私がバックマージンを予想しましょう。多分一品につき半額ね。私達が頼んだ刺身盛りは一品3000円だから1500円がバックマージンよ。そして1500円が店の利益よ。だから原価が500円ってところね。あの店の刺し身がひどかったのはそのせいよ。それにしてもあの刺身は原価500円もしなかったでしょうね。赤ハリもそんな店にしたら?儲かるわよ。」
「いえ、私はそのような品性のないお店にはしたくありませんね。それよりも私達の分まで支払ってくれた信田君は相当に損をしたのではありませんか?」
 それに答えたのはノブタではなくタア子だった。
「それはないんじゃない。あの店の常連のノブタの事だから、店の親父に会社の名刺を見せて、『さっきの客は業界の人達ではないから俺には適正な料金で請求してもらいたい。会社宛で領収書を切ってくれ。』なんて言ったのでしょう。」
 これにはノブタがむせた。当然口の中にあったビールまで吐き出される結果となり、ますますノブタの株が下がってしまった。だがノブタが勤めている会社の株が下がった訳ではない。因みにノブタの勤めている会社は、テレビでは少しは名の知れた弁護士の事務所だった。
「まいったなあ〜多賀子さんにはかなわないよ。俺のとった行動だけでなくセリフまでそっくりそのまま言い当ててしまうのだから。」
 その日はそのお店を最後にして私達は帰った。野豚が狼の如く、私を自宅までタクシーで送っていくと言い寄ってきたが、私は邪険に断り一人でタクシーに乗って帰った。