2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

第一幕第三場(3)

「うちの奥さんは料理が美味いから。」 「美味いから何よ、赤ハリがお店をするのでしょう?」 「お店って言っても居酒屋だからねえ。」 「だから居酒屋でしょう?料理を出すんでしょう?」 「料理って言ってもちょっとした食べ物を出すだけなんだよ。」 「そ…

第一幕第三場(2)

そのタア子の性格を忘れていた私はバカだった。 タア子は赤ハリ先生に対して無礼にも、 「赤ハリは音楽しかやった事がないんでしょう?どうして居酒屋をするという発想になるのかなあ?」などと悪態をついている。私はおもわず助け舟を出した。 「だけど忘年…

赤ハリプロジェクト始動開始

第一幕第三場 赤ハリプロジェクト始動開始 翌日さっそく、私とタア子は赤ハリ先生のお宅へ押しかけた。 玄関から中へ入ると、いつもながら最初に出迎えてくれたのはヨハネスだった。彼は熱烈大歓迎というような嬉しそうな顔をして飛びかかるように私の肩を抱…

第一幕第2場(8)

絶望的な静けさだ。しかもここは場所が悪かった。図書館併設の喫茶店だからかBGMすら流れていない。静寂なだけならまだいい。時折深い溜め息まで漏れ聞こえてきた。 タア子までみんなと一緒に落ち込んでいる。まったくもう・・・しかたがない!私がこの空…

第一幕第二場(7)

そこへまた信田だ。タア子と私の間では彼にあだ名は必要なかった。私達は彼を普通にノブタさんと呼んでいる。だがそれは信田さんではない。私達の中では野豚さんというあだ名が既に成立していたのだ。そのノブタが突拍子もない話を始めた。 「みんなは『赤い…

第一幕第二場(6)

アラ・フォーのノブチンが言った 「私、先生の気持ちがわかるなあ・・・それに先生らしいと思うわ。だってあれだけお酒が大好きな先生ですもの。それに昔からよく料理を作って頂いたわ。ねえ? (えっ、私に振ったの?・・・私そんなに先生の料理を食べた記…

第一幕第二場(5)

(毎回のタイトルに乱れがありました。 謹んでお詫びもうしあげます。) 私は赤ハリ先生が常日頃から言っていた事を思い出していた。 『人前で演奏するって事は緊張する者なのですよ。でも緊張する事とアガル事は違うのです。緊張はした方がいい。演奏に集中…

第一幕第二幕(4)

その時だった。一番年長である神杉静江さんが口を開いた。彼女が「60の手習いでピアノを始めました」と上品に自己紹介をしていたのが5年前の発表会の時だった。 「わたくしは先生よりも年長でしょう。だから気を遣ってくださったと思うのよね。 先日、先…

第一幕第二場(3)

さて、赤ハリプロジェクト第1回目の会議だが皆それぞれに天気の事や最近の気になったニュースや身近な世間話など、所謂当たり障りのない話をしている。タア子はオロチと大学のオーケストラの話をしていた。 私はいよいよ話の核心にみんなを向けさせようと口…

第一幕第二部(2)

私は彼の事を『ラから山多君』と呼んでいた。それは山多君が赤ハリ先生のピアノ発表会で、ハ長調の平易な曲であるにもかかわらず、つまりドミソのいずれの音から始まるべき曲を、なんとラから始めたものだからさあ大変!彼は一人混乱したまま古典派の美しい…

赤ハリ先生のお弟子さん達

第一幕第二場 赤ハリ先生のお弟子さん達 今、目の前に赤ハリ先生の門下生達が集まっている。 ここが騒々しい居酒屋ではなく、洒落たランチを出すレストランでもなく、図書館併設のお世辞にも雰囲気のいいとはいえない喫茶店だという事が、私達の関係を物語っ…

第一幕第一場(8)

その時のピアノ発表会で、私はタア子と話をするような仲になった。先に声を掛けてきたのは、勿論タア子だった。偶然にも私達は同じ大学に通っていた。私は単なる偶然にすぎないと思っているが、タア子は違うようだ。『運命的な出会い』などと訳のわからない…

第一幕第一場(7)

私とタア子は友達でもなんでもない。(彼女はどう思っているかわからないが)彼女とは赤ハリ先生のピアノ教室で一緒だっただけなのだ。と言っても、赤ハリ先生のピアノ教室はグループ・レッスンではない。年1回開催される赤ハリ先生こと斎藤ピアノ教室主催…

第一幕第一場(6)

オロチ君からのニュース・ソースはせいかくだったようだ。タア子に赤ハリ先生からメールが届かなかったのも理解できた。あいつのおしゃべりは雑音そのものではないか。とはいえ、タア子には連絡しておくべきであろう。放っておいたりしたら、それこそ彼女の…

第一幕第一場(5)

私はタア子に嘘をついた。私が携帯を見ないというのは本当だ。でも家に置いてきたというのは嘘で、きっと赤ハリ先生は私にもメールを送信している筈だと思った。 タア子と別れた私は、すぐ近くの洒落た喫茶店に急いで入った。 エルメスのトートバックから携…

第一幕第一場(4)

「で、赤ハリ先生がピアノを止めるっていうのはどういう事?ピアノを弾くのを止めるっていう事?それともピアノを教えるのを止めるっていう事?」 「私もよくわからないのよ。とにかく止めるのだと聞いただけなの。」 タア子が気象予報士でなくてよかった。…

第一幕第一場(3)

で、そのタア子が騒動を持ち込んできたのだ。 「ブラマン大変よ。本当にビックリしたんだから・・ 何だと思う?」 「さあ・・(あなたの脳みそ以上にビックリする事って考えられないわ)・・・私、あなたの心が読めないからわからないわ。」 「そう、だった…

第一幕第一場(2)

ある日の夕方だった。私とタア子が大学からの帰り道に公園のベンチへ座っておしゃべりをしていた。 タア子が突然に薄暮のうっすらと見える月を指さして言った。 「ねえ、あそこに見えるのは月よねえ?」 「ええ、月よ。」 「太陽と月って同じじゃあないよね…

オペレッタ「赤ハリ先生の居酒屋」

オペレッタ「赤ハリ先生の居酒屋」 第一幕第一場 先生からのメール その騒動は突然に降って湧いた。私の所へ降って湧かせたのはタア子だった。本名、安藤多賀子。タア子というあだ名の名付け親は私だ。彼女と出会った頃は多賀子と呼んでいた。だが、こいつの…

新しく小説を連載します

はやいものでもう11月になった。僕の駆け抜けるような1年が過ぎていった。お店を始めてちょうど1年になる。1周年記念はやらないの?とお客さんに言われるが「こういう事は自分からやるものでもないし、そんな事は嫌いだから」なんて言っている。商売人…