第一幕第二場(6)

 アラ・フォーのノブチンが言った
「私、先生の気持ちがわかるなあ・・・それに先生らしいと思うわ。だってあれだけお酒が大好きな先生ですもの。それに昔からよく料理を作って頂いたわ。ねえ?
(えっ、私に振ったの?・・・私そんなに先生の料理を食べた記憶がないしなあ・・・)
 そおかあ、先生がよく料理を作ってくれたのは随分と昔の事だったわね。そういえば、最近は先生の料理を食べてないなあ・・・」
 ノブチンが明後日の方向を見ながら感慨に耽っていると、タア子が語気を強めて言った。
「今日みなさんに集まってもらったのは『赤ハリプロジェクト』を発足させようと考えているからです。みんなで先生の転職を陰なり日向なり協力していこうという会です。」
 アラ・フォー主婦のイルカさんが訊いた。
「その赤ハリというのは何なの?先生のあだ名だというのはわかるのだけど・・・」
 それに続いたのが信田正だ。老けて見えるがおそらく40代前半であろう彼が面白くないジョークを言った。
「まさか先生のピアノの指導が厳しいから、真っ赤なハリセンを持ってビシビシっていう意味で赤ハリなのかな?」
 勿論みんなから黙殺された。しばらく沈黙の後、アラ・フォーのノブチンが言った。
「私はわかったわよ。先生の大好きな作曲家、ブラームスがウィーンでよく通っていたレストランの名前が『赤いはりねずみ』でしょう?いいあだ名ね。私気に入ったわ。今度から私も赤ハリ先生って呼ぶわね。」
 さすがノブチンだ。私がみんなの為に補足してやった。
「そうです。『そうです。『赤いはりねずみ』略して赤ハリです。」
 一同から異口同音に感嘆の声があがった。