実習生がやってきた(2)

 朝礼で実習生たちの紹介があった日の午後、実習生たちと俺たち患者の顔合わ

せがあった。俺の担当になった実習生は、大学4年生で丸顔でちょっと童顔の女

子だった。大きな部屋でそれぞれの担当組に分かれ、お互いに簡単な自己紹介を

しあった。それを大学側の教官と看護師が監視していた。俺は開口一番実習生に

「精神病院へ来てみてどう思った?」と訊いた。彼女は少し間を置いてから言葉

を選ぶように答えた。「思っていたより普通の病院のみたいだったのでびっくり

 しました。」俺は普通という言葉が可笑しくてからかい口調で「普通かあ~、

 映画やドラマに出てくるような、病院内を奇声を発して歩いていたり、ベッド

 に縛られたまま暴れているような凄い所だと思っていた?と意地悪く言った。

彼女は困り顔で答えないでいるので俺は更に続けて「病院の通路に鉄格子ででき

 た部屋が並んでいて、中から『出してくれ~!』と叫びながら手を掴まれると

 思っていたんでしょう。」と笑いながら言った。そして「何でも訊いて。何で

 も答えるから。」と彼女に質問を促した。すると彼女は俺の顎が落ちるような

まさに驚愕するようなことを言った。「ヤマダさんは居酒屋をやっていたんです

 よねえ?」「えっ!なぜ知っていの?自分でも忘れていたし、病院の中で一度

 も出てないよ。主治医だってそのことは知らないと思うのだけど。」すると彼

女はキッパリと言った。「病院の患者情報ファイルを見せてもらったんです。」

ここからは完全に形勢逆転で彼女に主導権を握られてしまった。