2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ピエタに孤児犬が来た(3)

(デンってやっぱり私の事じゃない) デンは賢い犬だった。立て、座れ、つけ、お手など、基本的な動作はすぐできるようになった。もちろんその躾をしたのはアンナだった。アンナはデンをピエタ近くの広場へよく連れていった。そこでデンにボールを投げたり、…

ピエタに孤児犬が来た(2)

(孤児犬ってもしかして私がモデル?) アンナは、目の前の暢気に寝ている大きな仔犬をじっと見ていた。 その仔は時々片目を開けてはアンナを見て、またすぐに目を閉じて安心したように眠った。 アンナは小さな声で、その仔犬に聞こえるようにはっきりと呟い…

ピエタに孤児犬が来た(1)

(こんな感じの仔犬かなあ?) そこには既に何人も集まっていて騒然としていた。アンナとパオラはその小さな人垣の中に割って入って、横になっている仔犬を見た。 「こ・・・これ・・・これが仔犬?」 「これって牛の仔じゃないの?」 アンナもパオラも、目…

管楽器の練習部屋にて(3)

(僕の部屋は小さいのです) 部屋の隅でパオラが練習していた。それがヴィヴァルディの協奏曲だとすぐにわかった。パオラが吹くバッソンは、普段はオーケストラの低音を支えている楽器だとは思えない程、独奏楽器のように軽やかで、この楽器が技巧的にも素晴…

管楽器の練習部屋にて(2)

(ここは僕の部屋です・・・ライ) 「私ね、キアーラさんからアントネッラさんの事をいろいろと聞いたのよ。」 アンナはアントネッラの表情が少し変化したのを見逃さなかった。 しかしアントネッラは冷静に対応した。 「そう?キャラが何を言ったのか興味あ…

管楽器の練習部屋にて(1)

(ライヴィッチの部屋にて・・・モナ) ピエタ合奏団はヴァイオリンなどの弦楽器がほとんどだった。だから必然的に弦楽合奏曲がプログラムの中心になる。しかも、上級者と初心者が一緒に演奏できる合奏協奏曲やソロ協奏曲の練習は、ピエタ合奏団の演奏技術の…

パオラの話(6)

(寝ていてもお耳だけはしっかり聞いています) 二人の沈黙の時間は、アンナから話の続きを切り出させる事になった。 「パオは、その後でアントネッラに会ったのね?」 「そうよ、彼女はアントニオの事はすぐに認めたわ。でも私は彼女を憎んでいない。なぜな…

パオラの話(5)

(人の話は聞けないにゃ〜) アンナは話の核心をへ急いだ。 「パオはどうしてアントニオさんに、その後会わなくなったの?」 「アンったら、もう相変わらずなんだから・・・私がその後はアントニオに会っていないって言ったかなあ?」 「だって、この前パオ…

パオラの手紙(3)

(私たちも長い耳で聞けますよ❤) パオラは、アンナの心が読めていた。 「アントネッラが謝肉祭の衣装を着た犯人だとすぐにわかったわ。だってアントネッラこそ、キャラ以外で私の部屋を自由に出入りできる唯一の人物だからよ。 あの事件までは、私とアント…

パオラの話(2)

(ライもピシッとして聞けます) 「だから・・・キャラがあんなに苦しんでいたなんて知らなかった・・・いや、私が冷静だったら気づいていたのかも。アントニオに会っていた4年間の中で、私の目的は前菜であるキャラの話ではなく、アントニオに会う事そのも…

パオラの話(1)

(人の話はピシッとして聞いてます。) 「アントニオが結婚するとキャラから聞いて、私が彼に会いにいった話は、以前アンにしたでしょう。私はそれからも週1回程度、アントニオに会いにいったのよ。はじめはキャラの為にと必死だった。少しでもキャラの様子…

アンナ、パオラの部屋を訪れる(1)

(モナちゃん、ライの部屋を訪れる) その数日後、アンナはパオラの部屋のベッドの上に腰掛けていた。部屋の窓がガタガタと激しい音を発てながら震えた。その音は、まさしくヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲【海の嵐】の冒頭にある激しいトレモロ奏法のよ…

パオラの手紙(4)

(読んだ〜?) アンナが手紙を読み終えるのを待っていたキアーラが声をかけた。 「これでわかったでしょう。私とパオの関係が。だから私はアンが思っているようないい人間ではないのよ。私の嫉妬からパオを苦しめたという十字架は、私が一生担いでいくつも…

パオラの手紙(3)

(私たちはいつも仲良し) (パオラの手紙の続き) それから、これはキャラに伝えるべきか迷ってい る事なの。正直言って、今でも迷っているわ。で も、私が本当にキャラに忠実なる妹だという証とし て、今ここで、正直にあなたに伝えておきます。 私の部屋…

パオラの手紙(2)

(ほらっ、これだ!) 『 愛するキャラへ キャラ、今回の事では本当にあなたを苦しませて しまった。本当にごめんなさい。 でも誤解しないでね。私はあの日、絶対にアントニ オさんに会っていない。神と聖マルコに誓えるわ。 でも、なぜキャラが私を疑ったの…

パオラの手紙(1)

(どれどれ) # キアーラにとっては昔の話だった。だが辛い回想だった。その辛さが、傍らのアンナには痛いほどよくわかった。本当に仲のいい二人だ。そんな残酷な過去があったなんて、アンナはキアーラの心中を察した。なぜならキアーラは、17年もの間恋…

消えた謝肉祭の衣装

(私は何も知りません) 「パオ、私見てしまったの。」 キアーラがこう言って切り出しても、パオラの表情は全く変わらなかった。それどころか普段の口調がますます冴えわたった。 「どうしたの?キャラ。もしかして私の裸でも見ちゃった?そういえば顔色が少…

パオラの裏切り?(5)

(謝肉祭は右も左も大賑わい) 気がつくと国営造船所にいた。 アントニオは昔ここで働いていた。彼はいつも歌っていたので、どこにいるのかすぐにわかった。キアーラにとって彼の声はまるで愛の天使の歌声に感じたものだ。 キアーラはその造船所に立っていた…

パオラの裏切り?(4)

(いざ謝肉祭へ) その時だった。彼女の所へ仮面の男が一人近寄った。その男は彼女の耳元で何かを囁いた。彼女はそれに肯いて二人は一緒に歩き出した。キアーラは足がガタガタと震えた。 二人の向かった方向は自分もよく知っている道だった。そして二人が消…

パオラの裏切り?(3)

(いざ、謝肉祭へ) キアーラは謝肉祭の仮面に【調和の霊感】の2つのヴァイオリン独奏の旋律を書き入れる事で、この仮面の主が自分だとアントニオにわかってもらえるようにした。それをパオラに渡したのだから当然キアーラも、その仮面を見ただけでパオラだ…

パオラの裏切り(3)

パオラの裏切り?(2)

(私は裏切らないわよ〜) 謝肉祭のある日、キアーラは決心した。パオラへの疑念を晴らす為に、彼女を試す事にした。 キアーラはパオラの部屋を訪れた。キアーラはパオラのベッドの上に持参した物を置いた。パオラはそれが何かはすぐに理解した。なぜならパ…

パオラの裏切り?(1)

(なんでお前の方がベットなんだよ〜ライ) アントニオが結婚して4年が経った。キアーラは27歳になっていた。キアーラは、パオラが時々アントニオに会っていたのを知っていた。パオラは、キアーラがアントニオが結婚すると知って泣いた時、一生懸命にアン…

謝肉祭の恋人

(山田家の恋人よ) # わずか5歳でピエタにきたキアーラにとって、5歳年上のアントニオは彼女の心の支えだった。16歳でアントニオがピエタを出ていっても二人の関係は変わらなかった。二人の関係はその後も長く続いた。もちろんその間に二人は、兄弟の…

当世流行の劇場(2)

(私たちの劇場はもちろんフィールドよ) キアーラはアンナに、1720年に出版された音楽批評本『当世流行の劇場』で書かれていたヴィヴァルディへの中傷や批判の内容を話した。 「もともとプレーテ・ロッソの音楽は既存の音楽とは違うでしょう。批判され…

当世流行の劇場(1)

(フーガ君は我が家の人気者) キアーラはアンナにわかってもらいたかった。ヴィヴァルディにとってヴェネチアは必ずしも居心地のいい街ではなかった事を。もちろんヴィヴァルディは有名だったし、ピエタ合奏団での功績は内外で認められていた。それがピエタ…

ピエタの噂(4)

(狼じゃないよ) 「プレーテ・ロッソは写譜を利用して家族を儲けさせようとしているのだ、と。確かに先生は何人もの家族を同居させて養っていた。でも写譜したからって先生やその家族に賃金が払われる訳ではないのよ。あれはプレーテ・ロッソ流の優しさだっ…