管楽器の練習部屋にて(2)


(ここは僕の部屋です・・・ライ)
「私ね、キアーラさんからアントネッラさんの事をいろいろと聞いたのよ。」
 アンナはアントネッラの表情が少し変化したのを見逃さなかった。
 しかしアントネッラは冷静に対応した。
「そう?キャラが何を言ったのか興味あるわね。私の悪口かしら?」
「なぜ悪口なの?普通にいろいろな会話をしただけよ。アントネッラはフルートが上手だと褒めていたわ。」
「そう、ならいいわ。私もキャラともっと親しくなりたいのだけど、彼女真面目だからなかなか会話が弾まないのよ。アンナはなぜかキャラと性格が合うみたいね?」
「それはきっとヴァイオリン同士だからでしょう。私はキャラの事を尊敬しているわ。アントネッラはさんはキャラのどこが好きなの?」
 アントネッラは答えに窮した。それを見てアンナは言葉を続けた。
「アントニオさんって人を知っているでしょう?」
 アントネッラの顔色が完全に変わった。
「な、なぜ?・・・なぜアンナがその名前を知っているのよ!」
「えっ、どうして?だってキャラといろいろな話をしたのよ。当然恋人の話もしたわ。私はアントネッラさんも知っているのかなあ?って思っただけよ。」
「そうなの、ただその名前くらいは聞いた事があっただけよ。そのアントニオだっけ?キアーラはまだ彼と付き合っているの?」
「えっ?何言っているのよ、それは昔の話よ。アントニオさんは奥さんも大きなお子さんもいるそうよ。」
 アンナは、アントネッラの混乱した顔を観察しながら、さらに話を続けた。
「アントネッラさんは、ヴィヴァルディ先生がいなくなった事をどう思っているの?」
「どうって、それは残念に思っているわ。」
「でも、ジローという女性と駆け落ちしたのでしょう?」
「確かにそんな噂は聞いた事があるわ。プレーテ・ロッソは天才だから女性にもてるのよ。」
「でも、女性と駆け落ちしたのは他に目的があるからだって聞いたわ。」
「それはキャラから聞いたのね?プレーテ・ロッソがいなくなったのはどうしてなの?その目的って何だと言っていた?」
「わからないわ。キャラもわからないって言っているし、アントネッラさんは知っているのかなあと思って訊いただけよ。」
「そうなの・・・アン、何かわかったら私におしえてね。絶対よ。」
 アントネッラはそう言うと、またフルートの練習を始めた。二人の会話の邪魔になると気をつかってか、休憩していたクララたちもまたオーボエの練習を始めた。
 アンナは、細胞分裂した頭をこれからどう整理していくべきかを考えていた。思考の方向は間違っていないと確信した。そしてそのままパオラのいるバッソンの練習部屋に向かった。