2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ピエタの演奏会(4)

そこへヴァイオリンを持ったヴィヴァルディが登場した。拍手はさらに大きくなった。【和声と創意の試み】からヴァイオリン協奏曲【春】【夏】【秋】【冬】が始まろうとしている。ヴィヴァルディがヴァイオリン独奏者兼コンサート・マスターとして弓を大きく…

ピエタの演奏会(3)

次はヴィヴァルディの独奏の予定だった。鳴りやまない拍手の中、彼が舞台に出てきた。だがその手にヴァイオリンはなかった。会場がどよめいた。。ヴィヴァルディが話しはじめると会場は静かになった。 「今日はたくさんの方々にお集まり頂きまして、本当にあ…

ピエタの演奏会(2)

次に登場したのはパオラだった。彼女のバッソンの抜けるような明るい音色と、速い音型を軽やかに吹ききる彼女の演奏もまた、ピエタで大人気だった。ところがこの日の彼女は少し趣が違った。カラッと乾いた明るい音色が持ち味だったパオラのバッソンは、チェ…

ピエタの演奏会(1)

翌日のピエタ合奏団の演奏会は大変な活況だった。当然だ、ヴィヴァルディが6年ぶりにピエタで演奏するのだ。しかも今や世界中で有名になった名曲【四季】を、彼が独奏で全曲演奏するというスペシャル・プログラムだった。会場は通路いっぱいに聴衆で溢れて…

アンナと老マエストロ(8)

老マエストロがすぐに反応した。大声で 「誰じゃ!誰がそこにいる?」と叫んだ。 「すっ、すみません。パオラです。」 すると、スーとドアが開いて、彼女が顔を見せた。今まで二人の話を聞いていたのは、蒼白な顔色と震える唇でわかった。 「キャラが、アン…

アンナと老マエストロ(7)

「あなたは親方に、アントニオさんがトファナ水に関わっている事が知られているから危険だと忠告したんだ。そうすればあなたは親切な忠告者になります。そしてその忠告のお礼としてウルシオールを転売してもらった事にしておけば、国営造船所の親方の行為も…

アンナと老マエストロ(6)

「彼の第二の嘘はゴンドラの船頭に転身した理由です。当時彼はキャラに、歌手の道が断たれたと言っていた。そして今度は自分がストラドにウルシオールの秘密をばらしたからだと私たちに言った。これらも嘘です。ただ、この嘘はストラドあなたが関わっている…

アンナと老マエストロ(5)

アンナは老マエストロの顔を見ながら、立板に水の如く一気に話した。 「結論から言うと、アントニオさんは毒薬であるトファナ水の売人だと思います。 まだピエタで歌っていた頃の彼は、国営造船所で船底の塗料塗りの手伝いをしていました。おそらく彼が殺鼠…

アンナと老マエストロ(4)

アンナは深く息をついてから、目を閉じて静かに言った。 「キャラの元恋人なんていうレベルの人物には思えなくなってきています。実は口にするのも憚れるくらい恐ろしい事を考えているのです。」 「ヒャヒャヒャ、わしの前であんなに遠慮なく物申しておった…

アンナと老マエストロ(3)

アンナはふっと一息吐くと話を続けた。 「今回私は、ストラドのニスの秘密を考えていくうちにウルシオールの存在を知り、親方とあなたの関係に疑念を抱いてから、私は書物をいろいろと調べた結果、秘密結社の存在を知りました。あなたが秘密結社の一員だと考…

アンナと老マエストロ(2)

[ 「わしが造船所の親方と知り合いではないのに、そんな事が可能なのかな?」 「ヒントはまさにあなたが今言ったその言葉『親方』でした。あなたはその昔、木彫り職人だったと言われていましたね。船大工も大きな意味で木彫り職人です。世の中に、職人から始…

アンナと老マエストロ(1)

(かわいいモナカです。) アンナは部屋に残ると、さっそく老マエストロと対面して話を始めた。 「ねえストラド、昔あなたに出会ったアントニオさんが、ウルシオールの存在をあなたに伝えて少量をあなたに譲りましたよね。その後アントニオさんは、多量のウ…

3人娘と老マエストロ(3)

三人娘がアントニオに会った話では皆で大いに盛り上がった。老マエストロは彼女たちの話を楽しそうに聞いていた。特にキアーラがゴンドラの上で仮面を取った時の、アントニオの狼狽ぶりを話した時にいたっては、老マエストロは本当にお腹を抱えながらヒャッ…

3人娘と老マエストロ(2)

(お邪魔しま〜す) そえからしばらく3人娘と老マエストロは積もる話をした。一番積もっていたのは、秘密のニスだった。アンナは、ストラドのニスは湿気に強いウルシオールだと言った。老マエストロは、ヒャヒャヒャと笑いながら楽しそうに話した。 秘密の…

3人娘と老マエストロ(1)

(お邪魔しま〜す。) 翌日の昼休みに、いつもの3人娘たちが老マエストロの部屋を訪ねてきた。 「お邪魔しま〜す。は〜いストラド、元気だった?5年ぶりだよねえ。」 部屋に入ってくるなり、パオラがため口で言った。キアーラとアンナも入ってきた。老マエ…

ヴィヴァルディと老マエストロ

(ライヴィッチとルナピンスキーよ) ヴィヴァルディが老マエストロの部屋を訪れた時は、夜も更けていた。それでもこの街の賑わいが衰える事はない。だが目の前にいる老マエストロは確実に衰えていた。それも仕方がない。彼はもう90歳を軽く越えていた。老…

ヴィヴァルディ(5)

(ヴィヴァルディとストラドはこのくらい仲良し❤) ヴィヴァルディと老マエストロはピエタ内の書庫の隅で対峙していた。 「今日ここへ来たのは、楽器を持ってきただけではない。どうしてもお前さんに会いたくて来たのじゃ。歌劇場でお前さんがピエタに復帰し…

ヴィヴァルディ(4)

(ライトルナは仲良しよ❤) ピエタ合奏団の練習風景は、いつもと雰囲気が違っていた。当たり前だった。そこにはヴィヴァルディが再びピエタ合奏団に君臨していたのだ。ヴィヴァルディは57歳とは思えないくらい、情熱をもって合奏団を指導していた。時には…

ヴィヴァルディ(3)

(いえいえ、こんな顔でしょう) アンナを、キアーラは改めてヴィヴァルディに紹介したのは、その日の夜だった。 「プレーテ・ロッソ、紹介しますわ。彼女がアンナ・ マリーアですよ。お聴きになられたのなら蛇足になりますが、ヴァイオリンの腕も確かですわ…

ヴィヴァルディ(2)

(ヴィヴァルディってこんな顔?) パオラの情報が確かであった事は、近寄って来たさらなる大声の主によってすぐに証明された。 「おいおいキアレッタ、なんだあのヘタクソなヴァイオリン独奏は。あんなに積極的で上手な弾き方では、初々しい『恋人』ではな…

第4章 ヴィヴァルディ

(こちらはバッハと息子たち) アンナがピエタに来て5年の歳月が過ぎていた。ピエタの中も、『合奏の娘たち』も劇的に変貌するような出来事もなく、皆が一律に5年歳をとっただけだった。ピエタの演奏会では相変わらずキアーラとアンナが二枚看板として活躍…

アンナとピーノ(2)

(ライとルナよ❤) アンナの頭には、協奏曲【冬】の旋律の南風、北風、東風が渦巻いていた。アンナの思考はひたすら自分の記憶に集中していた。だから今、散歩の主導権はデンが握っていた。アンナは、デンがシッポを振りながら好き勝手に行く方向に任せて一…