ピエタの演奏会(3)


 次はヴィヴァルディの独奏の予定だった。鳴りやまない拍手の中、彼が舞台に出てきた。だがその手にヴァイオリンはなかった。会場がどよめいた。。ヴィヴァルディが話しはじめると会場は静かになった。
「今日はたくさんの方々にお集まり頂きまして、本当にありがとうございます。
 演奏会は、それを成功させる大切な要因がいくつかあります。それは素晴らしい聴衆の皆さまです。そして皆さまに感動してもらえるような素晴らしい音楽と、それを表現する為に、日頃から努力を続けている彼女たち演奏家です。そしてそれらを結びつけるなによりも大切なもの、それが楽器です。私たちはこの大切なものに恵まれました。神々しいまでに美しく響くヴァイオリンを私たちに提供してくれた巨匠、ストラディヴァリウス師が、今ここにおられます。」
 会場がざわめいた。ヴィヴァルディはさらに言葉を続けた。
「実は今朝、私の所に二人の娘が来て、ある事を願い出たのです。それは、今まで大変お世話になった巨匠の前で是非とも演奏したい曲があるというのです。私は、彼女たちの申し出を快諾しました。
 練習をしないで皆さまの前で演奏する無礼をお許しください。でも独奏ヴァイオリンの腕は確かです。では前半のアンコールとしてお聴きしてください。私が作曲した【調和の霊感】から2つのヴァイオリンの為の協奏曲イ短調より第2楽章と第3楽章です。ヴァイオリン独奏はキアレッタとアンナ・マリーアです。」
 会場は熱狂的な拍手と歓声に包まれた。
 キアーラもアンナも、老マエストロに感謝を込めて演奏した。演奏中もアンナは感極まり、目に涙を浮かべ時折それが頬をつたった。隣のキアーラも涙を流しながら弾いていた。
 演奏後、二人は聴衆から感銘の拍手を受けながら、スッと後ろの合奏団に交じった。
 いつまでも拍手が続いていた。