2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ウィーンの共同墓地で(1)

「先生、遅くなってごめんなさい。先生、どうか私を許してください。そして、兄をゆるしてください。」 アンナはヴィヴァルディの墓の前でひざまづき手を合わして祈った。涙が止まらなかった。デンもそれを察したのか、アンナの隣でウォ〜ン、ウォ〜ンと吠え…

ローマのアンナ

アンナはバチカンからローマの街を散策した。もちろん一人ではない。隣で一緒に歩いている輩は、街のいたる所にいる猫に色目を使っている。石畳のあちこちでいい匂いがするのだろう。クンクン嗅ぎまわってなかなか前に進まない。それも今のアンナにとっては…

バチカンのアンナ

アンナはバチカンにいた。聖ピエトロ大聖堂の中のピエタ像の前で、彼女はひざまずいて手を合わせていた。 (本当に美しい像だわ。キリスト受難の悲しみをこんなにも清廉なまでに昇華できるなんて、本当に神々しく見事な聖母像だわ。やっぱり来てよかった。)…

アンナと兄フランツ(13)

「アンヌ、ありがとう。本当に、本当にありがとう。私は、お前をあらゆる危険から守っていきたいのだ。私は、お前には本当に済まないと思っている。・・・だからどうか私を信じて欲しい。」 「フランツ兄さん、私は覚悟していますわ。先程、家臣の方に馬車を…

アンナと兄フランツ(12)

そこへドアがノックされた。家臣らしき者が入ってきて丁重に言った。 「シュテファン様、女王陛下がウィーンでお待ちです。そろそろ出発しませんと。」 フランツは言った。 「わかった。お前はさがっていなさい。」 「はい・・・」 「ちょっと待て、馬車をも…

私が崖から落ちた訳(4)

深夜の真っ暗な公園をリードから解放されたルナとライは散歩を満喫していた。私がスタスタと前に早足で進んでも、連中は後方でチンタラとまさに道草を食っている。ハッと我に帰ったルナとライは遥か先を行く私を追いかけてくる。だいたいいつも先にライが必…

私が崖から落ちた訳(3)

その大きな公園は深夜までは点在する照明が辺りを明るく照らしているが、深夜0時を過ぎると省エネの為かほとんどの照明が消え、辺りは真っ暗になる。真っ暗な広い公園はちょっと心細い。男とはいえ一人で歩くには勇気がいる。ただ、私の場合一人ではない。…

私が崖から落ちた訳(2)

夏の散歩は暑いのでおのずと時間が決まってくる。夜か日の出前の早朝だ。私たちが(ルナとライ)毎晩のように深夜の公園の散歩を楽しみ始めたのは6月ごろからだった。きっかけはホタルだった。前回記した大きな公園の中には子供が遊べる小川があった。それ…

私が崖から落ちた訳(1)

(みんなでのお散歩は楽しいぞ❤) 今日(9月18日)退院しました。 音楽ミステリー小説『調和の霊感』再開の前に、今回私が骨折した訳を他のエピソードとともに今週いっぱいブログにしよう。 ですから『調和の霊感』は来週24日(月)から、再開します。 …

1週間お休みのお知らせ

犬の散歩中崖から転落して手首を骨折しました。ルナピンスキーもライヴィッチも元気です。というか彼らは崖の上から落ちた私を見ていました。落ちた原因は全てに、バカな私にあります。 明日手術入院です。よって1週間ほどこのコーナーをお休みさせてくださ…

アンナと兄フランツ(11)

それでもアンナは声を絞り出してフランツに訊いた。 「先生がお兄さまに示した二つの容器はどうなったの?」 「あれは二つとも彼の亡骸と共に墓の中に葬られたよ。」 「ではストラディヴァリウス先生のヴァイオリンの設計図はどうなったの?」 「あれも破棄…

アンナと兄フランツ(10)

フランツは大きく溜め息をついてから、思い出すようにゆっくりと話をした。 「彼が死ぬとは思わなかったのだ。彼とは三日間ゆっくりと食事をしながら話をした。 彼の言動に危機感をもった私は、彼に私のメッセージを暗黙に伝える為に、食事にトファナ水を盛…

アンナと兄フランツ(9)

「ああ、そうだったね。 ヴィヴァルディは一介の音楽家と言ったが、一介の音楽家にしては、彼はいろいろと知りすぎていた。特にトファナ水は貴重な財源になる物だった。それを彼が知っている事など考えられないし、その者が宮廷の音楽家の中にいる事など考え…

アンナと兄フランツ(8)

フランツはヴィヴァルディとのやりとりを思い出しながら苦悩の表情を浮かべていた。その記憶を消してしまいたかった。そんなフランツの耳に、アンナのはっきりした声が響いた。 「それでお兄さまは、ヴィヴァルディ先生に何をなさったのですか?」 「私の立…

≪フランツとヴィヴァルディ≫

「シュテファン様、見ていただきたい物があります。」 ヴィヴァルディはそう言うと、右手を大きく広げて鞄から容器を取り出して机の上に置いた。これを二度繰り返してから、今度はそれぞれの容器の蓋を取ると、フランツの前にその二つの容器を差し出した。 …

アンナと兄フランツ(7)

「だから二度目に彼と会ったのはウィーンだ。彼は若い女性を連れてきていた。確かアンナ・ジローという名前だった。彼女は私に美しい声を聴かせてくれた。彼の歌劇の中から三曲ばかり歌ってくれた。そしてヴィヴァルディはウィーンの宮廷楽長のポストを私に…