2013-02-01から1ヶ月間の記事一覧

第三幕第一場 第二夜(1)

「それで今週は面白い客は来た?」 タア子は席に着くなり赤ハリ先生にそう訊いた。 閉店は0時、私達がここへ来たのは10時。タア子がこんな質問ができたのは当然、お客さんが他にいなかったからだ。そんなんでこのお店は大丈夫なのだろうか?そんな私の心…

第三幕第一場(7)

間髪入れずタア子が言った。 「ねえ赤ハリ、面白い事教えてやろうか。」 (お前、赤ハリ先生の話を真面目に聞いていたのか? 今の話理解できたのか?) 「あのねえ、隣にいるブラマン、何でブラマンというあだ名が付いているか知っている?」 (お前が勝手に…

第三幕第一場(6)

「多賀子さんは左のリンゴを褒めてくれましたが、右のリンゴは何故良くなかったのでしょうか?」 「だって色づかいは暗くて気持ち悪いし、形も歪んでただれているし、まるで腐ったリンゴみたい。」 「それなんですよ。左のリンゴは印象派が現れる以前の描き…

第三幕第一場(5)

タア子の賛辞は続いた。 「それにしてもいいじゃん、このリンゴの絵。 (タア子のタメ口はタメ池並みに進化した?) リンゴが赤色だと思っている奴はいっぱいいるだろうけど、(それはタア子、お前だけだ。)黄色のマジックで微妙なニュアンスが描けてるじゃ…

第三幕第一場(4)

そんな空気を気にする様子もなく赤ハリ先生は話を続けた。 「その中にクロード・ドビュッシーもいたのですよ。だから彼はマラルメの詩による歌曲を創っています。有名なオーケストラの曲『牧神の午後による前奏曲』もマラルメの影響から作曲したのです。それ…

第三幕第一場(3)

その夜から私達は『赤ハリの金曜日の会』を結した。毎週金曜日の夜、私とタア子が『赤いはりねずみ』に来て、お客さんがいなくなった後に、赤ハリ先生からその週の面白きお客さんのエピソードを聞く、という悪趣味な会だ。 それを即、カウンター内の赤ハリ先…

第三幕第一場(2)

その初老の男は仕込みで忙しい開店前の夕方、突然店に入ってきたそうだ。 「ちょっと邪魔してごめんな。思っていたより大きい店だねえ。マスター一人でやってるの?」 「基本的にはそうです。」 「そう、この店何人位入れるかねえ?」 「カウンターが一〇席…

第三幕第一場『赤いはりねずみ』の面白き客達

第三幕第一場 『赤いはりねずみ』の面白き客達 第一夜 『赤ハリの金曜日の会』 私とタア子は『赤いはりねずみ』のカウンター席に並んで座っていた。店内はお洒落なジャズが流れていた。それを気持ちよく聴いているのは私とタア子だけだ。他にお客さんがいな…

第二幕第三場

結果的に正解だったのは神杉静江さんだけだった。 『ブラマンさん、楽しい問題をありがとうございます。そして皆さまのメールも楽しく拝見しておりました。おそらく、みなさまもわたくしと同じ思い(答え)だと察しておりましたが、どうやら違っているみたい…

第二幕第三場(5)

『ブラマンお疲れ〜! 面白い問題だったよ。さっすがブラマンだね!みんなの思考をブラームスに意識させようとしているのがミエミエだね。うちはダマされないよ。 (???) 赤ハリはブラームスが好きだから、今のワンちゃんの名前がヨハネスだと、みんなは…

第二幕第三場(4)

最初にドア・マークの返信メールがあった。ノブチンからだった。 『(前文省略) ところでワンちゃんの名前だけど当然アガーテでしょう?フラームスが人生で唯一婚約した恋人でありながら一年で破棄されたアガーテ・フォン・シーボルトを赤ハリ先生の弟子で…

第二幕第三場(3)

私は『赤ハリ通信』を作成する為にパソコンのキーを打ちながら、昔ブラームスのピアノの小品を赤ハリ先生にレッスンしてもらっていた頃を思い出していた。当時中学生だった私に赤ハリ先生は、「ブラームスの小品を弾くにはブラームスの人生を知らないと上手…

第二幕第三場(2)

その三日後、今度は私がみんなに『赤ハリ通信』のメールを送った。 『今日、赤ハリ先生と安藤多賀子さんと一緒に買い出しができそうなお店をまわってきました。 多賀子さんが事前に、先生宅からお店までの間に点在するスーパー、量販店、商店街を調べてきて…

第二幕第三場 赤ハリ通信

第二幕第三場 赤ハリ通信 第二回赤ハリ会議と称した試食会の翌晩、ノブチンより『赤ハリ通信』に報告が入った。 『今日赤ハリ先生と友人のマンションへ行ってきました。結果としては想像以上の、いや私の想像をはるかに超える程の収穫でした。ましてや段ボー…

第二幕第二場(20)

『業務用食品取扱商社』 女性が多い『赤ハリプロジェクト』で、そのカタ ログは見事に壺にはまった。それも当然だ。その分 厚いカタログには高級レストラン等にあるような垂 涎のメニューのオン・パレードだったのだ。フレン チの三大食材『フォアグラ』『ト…

第二幕第二場(19)

『有線BGM』 赤ハリ先生がカタログをみんなに見せながら、 「クラシックだけでもいろいろなチャンネルがある のですよ。」という前向きな発言をした。 それを聞いたオロチが、 「仮にクラシックが店内に流れると、先生はこの演 奏者は誰なのか気になって…