第三幕第一場 第二夜(1)

「それで今週は面白い客は来た?」
タア子は席に着くなり赤ハリ先生にそう訊いた。
 閉店は0時、私達がここへ来たのは10時。タア子がこんな質問ができたのは当然、お客さんが他にいなかったからだ。そんなんでこのお店は大丈夫なのだろうか?そんな私の心配をわかっていない店主は、暢気にもタア子の質問に涼しい顔をして答えた。
「そうですねえ、今週は同業者の人がよく来ましたね。」
「やっぱり来たか〜。んで、どうだった、同業者は?」
「いろいろでしたよ。ただただ普通に飲むだけの人や、飲んで何品か食べていかれる方もいましたよ。そうそう、食べる人はよく『マスターの自信作は何?』って訊かれるのです。これには困りました。だって自信作だからメニューに載せているのです。そうそう、お薦めは?ともよく訊かれます。」
「バカだねえ、赤ハリは。そんな時は余り物を薦めるのよ。例えば今日食べてしまわないと明日は出せないような物をお薦めにするのよ。で赤ハリ、今日のお薦めは?」
「あ、それは今、あなた達の目の前に出ていますよ。賞味期限が今日まででしたので。」
「・・・・・・」
 タア子の目の前には揚げだし豆腐が置かれていた。
(この小説はあくまでもフィクションです。)
#今日から『私が4日間休んだ訳』を記すつもりでしたが、熟考した結果中止しました。
 引き続き、オペレッタ『赤ハリ先生の居酒屋』をお楽しみくださいませ。