第三幕第一場(7)

 間髪入れずタア子が言った。
「ねえ赤ハリ、面白い事教えてやろうか。」
(お前、赤ハリ先生の話を真面目に聞いていたのか?
 今の話理解できたのか?)
「あのねえ、隣にいるブラマン、何でブラマンというあだ名が付いているか知っている?」
(お前が勝手に付けたんだろうが!)
「いえ、ブラマンと呼ばれていたのも気づきませんでしたよ。ブラマンですか・・・ブラームスの好きな男という解釈ですかね?」
(おいおい、何故私がブラームス男なんだ!)
「違うよ赤ハリ、それじゃあ何で今のタイミングでブラマンの話を持ち出したのかわからないじゃない。まるで私がバカみたいじゃない。」
(みたいじゃなく、バカなんだよ。)
「もう赤ハリったらもう少し考えてよ。ドビュッシーの後に私がこの話をしているのよ。」
(考えなくていいぞ。どうせたいした話ではないから な。)
 するとタア子が私の肩に手をまわして言った。
「ブラマンが何故ブラマンと呼ばれているかは、
 (そう呼んでいるのはお前だけだよ。)
 ブラマンが発表会でいつもドビュッシーを弾いていたからです。」
 赤ハリ先生は言った。
「そうでしたかねえ、毎年いろいろな作曲家の曲を選んでいたつもりでした。」
「私はまだドビュッシーしか聴いていませ〜ん。」
ドビュッシーしかって、まだ二回だけだろう。)
「そうでしたか、でもドビュッシーにブラマンは全く関係なさそうだけど、どうして・・・」
「わかんないかなあ、
 (わからんわ!)
 ドビュッシーファーストネームはクロードでしょう?クロードって黒人(くろひと)って書けるじゃん。(書けないわよ。)
黒人、すなわちブラックマン、略してブラマンよ。」
 赤ハリ先生は感心したように言った。
「なるほど〜、クロードは黒人と書けるし玄人とも書けますね。どちらにしてもブラックマンですね。でも私はブラームス男のブラマンの方が好きですね。」
(おいおい先生のあだ名の話ではないし、だいいち私 は男ではないぞ。)
 とにかくこうして『赤ハリの金曜日の会』が始まった。
 私は深夜帰ってから、『赤ハリ通信』でみんなにそれを報告した。
(第一夜『赤ハリの金曜日の夜』 終わり)
 第二夜『同業者たち』の連載前に、明日から
『私が四日間休んだ訳』(エピソード)を記します。