2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

アンナとピーノ

(ライとルナよ❤) アンナはどうしても早くピーノに会いたかった。アントネッラと話した翌日、いつものようにデンの散歩を口実に国営造船所に向かった。アンナはピーノに対して弟のような感情を抱いていた。そしてなによりもピーノと会うのを喜んでいたのが…

アントネッラの部屋で(3)

「そう、アンはアントニオとそんな話までしたのね。だったら私がアントニオと寝たのが原因で、キャラが彼と別れた事は知っているようね。キャラには悪い事をしたと思っているわ。でも仕方がなかったの。どうしてもアントニオからトファナ水を買いたかったの…

アントネッラの部屋で(2)

(アントネッラ〜) アンナが、アントネッラの部屋を訪れたのは初めてだったし、アントネッラに面と向かってゆっくりと対話するのも初めてだった。 二人は無難な会話から始まった。 ピエタ演奏会でアントネッラの演奏が素晴らしかった事や、ヴィヴァルディの…

アントネッラの部屋で(1)

(山ちゃん、自転車ごと溝にはまって顔がボロボロにすごいんだってよ) アンナはアントネッラの部屋の前に立っていた。 その日に行われたピエタの演奏会で、アントネッラはフルート協奏曲【五色ヒワ】を見事に演奏したのだった。アンナはその演奏を賛辞する…

聖ジョルジョ・マジョーレで

(私たちはいつでも仲良しなのだ!) 気分が重くなった三人娘を、満面の笑みと甲高くよく通る声が出迎えてくれた。 「お〜い、ここだ〜。楽しかったか〜。」 この男、さっきまで三人娘の前で狼狽しきりだったとは思えないくらい明るい。能天気とはまさにこの…

聖ジョルジョ・マジョーレで(2)

(私たちはいつも仲良しよ❤) 次の日曜日は、ピエタの演奏会のプログラムにフルート協奏曲が入っていた。その曲目が【五色ヒワ】だった。フルート独奏はもちろんアントネッラだ。 アンナは鳴き声の主を捜しながら言った。 「この声が五色ヒワかあ。協奏曲も…

聖ジョルジョ・マジョーレで(1)

(私たちはとても仲良しよ) 「さあ着いたぜ。ここは小さな島だ。教会があるだけだ。わしはここで待っているから一通り見てきたらここへ戻っておいで。」 アントニオはそう言うと、キアーラに手を携えてゴンドラから降ろした。そして同様にパオラ、アンナと…

アントニオのゴンドラで(8)

アントニオは、ふ〜う、と一息ついて、回想するように宙を見上げてから、話を始めた。 「アンナの言うとおり、わしの一存で少なからずの量のウルシオールを工面できるものではない。わしは所長に直訴したのだ。あの先生がいかに素晴らしいヴァイオリン製作者…

アントニオのゴンドラで(7)

(なんでコイツがいるんだ・・ライヴィチ) そのアントニオが、キアーラの顔色を窺いながらアンナに答えた。 「どうだったかなあ・・・ああ、確かにあの娘は、トファナ水に大変興味を持っていたなあ。うん、そうだった。どこでトファナ水が買えるのか尋ねて…

アントニオのゴンドラで(6)

アントニオは神妙な顔をして答えた。 「これで話は結局元に戻った訳だ。つまり先生たちの要件は砒素の事だったのだ。わしがヴィヴァルディ先生に伝えた、多量の砒素がどこかへまわってトファナ水になっているという話を、先生はストラディヴァリウス先生にも…

アントニオのゴンドラで(5)

(ベッドの中は気持ちいいわ〜❤) アントニオはキアーラとパオラの話から、アンナがでかい犬を連れた女子に間違いないと確信した。そのうえで言った。 「ジョゼッペが、あっ息子の名前だ。あいつ最近、ピーノと呼ぶと怒るんでな。息子が言っていた塗料は、ウ…

アントニオのゴンドラで(4)

(ライヴィッチのベッドは狭いわ) パオラの話が終わると、アンナは話を再開した。 「それでです。ストラディヴァリウス先生がヴィヴァルディ先生と一緒に国営造船所に現れた事を、私がなぜわかったかと言うとですね、その秘密のニスが国営造船所にあったか…

アントニオのゴンドラで(3)

(ライヴィッチのベッドは気持ちがいいぞ❤) ずっと黙っていたキアーラだったが、アントニオのその言葉に反応した。 「そうだったの?私にはなにも言わなかったじゃないの。ゴンドラの船頭に転職したと、私に突然言っただけじゃない。」 「ああ、もしキャラ…

アントニオのゴンドラで(2)

(ライヴィッチのベッドはルナのもの!) 「そうだったなあ。この国は元首を中心に10人委員会が中枢となって政治を行っており、その委員会も民主的に選出される。だから、教会や貴族の勢力に対して中立が保たれているのだ。また、教会はローマ教皇から距離…

アントニオのゴンドラで(1)

(ライヴィッチのベッドで) 「ねえアントニオさん!」 バツの悪い顔をしたアントニオがアンナの方を向いた。楽しそうなキアーラとパオラの顔とは対照的だった。アンナは訊いた。 「トファナ水を知っていますか?」 アントニオより先にパオラが言った。 「で…

娘たちの謝肉祭(6)

(おう、ここが大運河か〜でもないなあ) パオラが言ったとおり、がらりと景色が変わった。確かに大商人や貴族の館が建ち並んでいた。それぞれは立派な建物なのだろう。だが、それらが小さく見えるくらい大運河はその名前以上に大きかった。ゴンドラから見え…

娘たちの謝肉祭(5)

(おお、これが大運河か〜んなわけないな) 「さあさあお嬢さん方、まだまだ時間がありますぜ。どちらに行きましょうか?」 アントニオは半ば自棄になっていた。身から出た錆とはいえ、過去に愛し合った女が目の前にいるのだ。まさしく蛇に睨まれた蛙の心境…