聖ジョルジョ・マジョーレで(1)


(私たちはとても仲良しよ)
「さあ着いたぜ。ここは小さな島だ。教会があるだけだ。わしはここで待っているから一通り見てきたらここへ戻っておいで。」
アントニオはそう言うと、キアーラに手を携えてゴンドラから降ろした。そして同様にパオラ、アンナと続けて降ろした。
 聖マルコ広場から眼前にはっきりと眺められた聖ジョルジョ・マジョーレ教会の美しい立ち姿も、こうして近寄ると威厳のある堂々とした正面ファサードがそびえていた。
 三人娘はそこから教会の中へ入った。中の厳かな空気とステンドグラスから漏れてくる神秘で美しい光が、彼女たちを無言にさせた。
 彼女たちの沈黙を解いてくれたのは、輝く太陽の光と遠くから聞こえてくる謝肉祭の喧騒、それから眼下に広がる海と島々だった。彼女たちは教会の鐘楼の階上にいた。
「私、あなたたちに感謝しているのよ。」
キアーラが遠くを眺めながら言った。
「あなたたちが一緒にいてくれたから、アントニオと気まずい雰囲気にはならなかったし、一緒に笑う事もできた。」
 パオラがキアーラに向いて言った。
「あらあら、急にどうしたの。感謝するならアンにでしょう。ほとんどの話題はアンが提供してくれたのだから。」
「いえいえ、パオがいたからこそ、私とアントニオの過去やアンの難しい話題も、深刻にならないで話せたのよ。ねえアン?」
キアーラは、パオラの向う側で海を眺めていたアンナを覗きこんだ。
 アンナはその顔を見て言った。
「ええ同感だわ。私は周りへの気遣いがヘタだから、パオお姉さまがいてくれて助かったわ。それにアントニオさんともあんなにたくさんお話ができたのですもの。今日はキャラお姉さまにも感謝です。」
 キアーラは再び顔を戻して遠くを眺めた。
 遠くで海カモメが鳴いている。近くでは小鳥が鐘楼の屋根や教会の屋根の上にとまって鳴いていた。その鳴き声に気づいたアンナが言った。
「この鳴き声?綺麗なさえずりだわ。以前にも自分の部屋で聞いた事がある・・・」
「五色ヒワよ。」パオラがすぐに答えた。