2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

デンとアンナとピーノ(4)

(こんな感じで覗いていたんだよ) 息を切らしたピーノがデンを抑えている所へアンナがやってきて言った。 「どうしたの?その甕はデンがお気に入りなのよ。お散歩の度に、その中を覗いてはクンクンと匂いを嗅いで、物欲しそうな顔をして私を見るのよ。」 「…

デンとアンナとピーノ(3)

(私も好奇心いっぱいよ❤) 「人間?ピーノ、あなた今、人間と言ったよね?殺鼠団子を人間も食べるの?」 「お前バカか、人間が食える訳ないじゃないか。食べたら死ぬんだぞ。」 アンナはカチンときた。二人はいつもこうだった。ピーノの悪口雑言に、アンナ…

デンとアンナとピーノ(2)

(上から舐めてやろうか〜?) アンナが到着すると、デンはピーノの両肩に前足をのせて、上からピーノの顔をベロベロと舐めていた。デンはアンナにはそんな事をしなかった。アンナがデンの躾としてさせなかったのだ。だから尚更デンはピーノとの対面を喜んだ…

デンとアンナとピーノ(1)

(私って大活躍!?) アンナはデンの行き先がわかっていた。デンは国営造船所がお気に入りだった。アンナも悪い気はしなかった。そこにはピーノという少年がいたからだ。いや、正確に言うとアントニオの息子であるピーノがいたからだった。アンナが国営造船…

ストラドの茶飲み話(4)

(さあ、逃げましょ、逃げましょ) 少し間があって、パオラが訊いた。 「ニスの秘密は、あの〜辰砂っていうやつではないの?」 老マエストロは意地悪な笑みを浮かべた。 「それはただの色付けじゃ。わしのニスにはもっと大きな秘密が隠されておる。これは誰…

ストラドの茶飲み話(3)

「私がストラドのヴァイオリンを初めて弾いた時、響きが建物に共鳴していたのに感動したの。はじめは音響のせいだと思っていた。でも弾いていくうちに、楽器が鳴っているのを実感できるようになったの。その事自体が不思議だったわ。だってヴェネチアの空気…

ストラドの茶飲み話(2)

(早く水が飲みたいな〜) 「私の兄は、鉱物を収集するのが趣味だったの。昔、真っ赤な石を見て綺麗な色だと言ったら、兄がこれは辰砂だと言って、絵画の赤い顔料にも使われるのだと教えてくれたの。だからストラドの楽器を見た時に、直感ながらに辰砂が使わ…

ストラドの茶飲み話(1)

(茶飲み話に出かけるわよ) 「辰砂ですね?」 老マエストロは、長旅で疲れたからしばらくヴェネチアに滞在する、と言ってピエタ近くのホテルに居座ってしまった。なぜ老マエストロがヴェネチアに居座ってしまったのかを知っているのはキアーラとアンナくら…

ストラディヴァリウスのヴァイオリン(3)

(これは私の椅子です!) 「ヒャヒャヒャ、愛するマリーア、お前は本当に賢い娘じゃな。」 老マエストロが崩しっぱなしの笑顔でそう言うと、キアーラもそれに応じるように言った。 「だから言ったでしょう。アンは賢い娘なんだって。どう、タジタジになった…

ストラディヴァリウスのヴァイオリン(2)

(ライヴィッチも秘密はありませんよ) 「さっきも話したけど、確かにアマティは素晴らしかったです。あんなに豊かで柔らかな音色を今まで聴いた事がなかったわ。でも今まで弾いていた私のこのヴァイオリンは他のヴァイオリンとは全然違うの。この楽器を弾く…

ストラディヴァリウスのヴァイオリン(1)

(モナチンも秘密はありません) アンナは腕の力を抜いて、弓の重さを腕全体で吸収しながら弦の振動をコントロールした。そのヴァイオリンの響きを耳から右脳で感じながら左脳で思った。 (ストラディヴァリウス先生とキャラは、まるでお爺さまと可愛い孫娘…

第2章『ストラディヴァリウスの秘密』

(私に秘密はありません) 第2章 ストラディヴァリウスの秘密 「おお、愛するキアレッタ!元気だったかな?それにしても、あのバカでかい犬はどうしたのだ?」 デンがピエタにやって来てから3ケ月が経っていた。確かに来た頃よりも2倍は大きくなっていた…

『調和の霊感』第2章へ(2)

(ライヴィッチです) ストラディヴァリウスの出現と同時にピエタではある騒動が起きます。第2章ではストラディヴァリウスのヴァイオリンの秘密に触れるのだが、同時にある物の存在がこの小説の大きなキーワードになってきます。それがピエタでの騒動から始…

『調和の霊感』第2章へ(1)

(私はルナピンスキーです。) 『調和の霊感』の第2章のタイトルは「ストラディヴァリウスの秘密」です。 ストラディヴァリウスはストラディヴァリとも言われている高名なヴァイオリン制作者です。クラシック音楽に興味がないどんな人でもベートーヴェンの…

『調和の霊感』第1章の解説(3)

(霊感なんてないわ〜) デンというでっかい仔犬が登場します。実はこの仔犬がこの小説において重要な働きをします。 このデンのモデルは私の飼っているルナピンスキーです。犬種はグレート・デンで「偉大なるデン人」という意味があり、そのせいでデンマー…

『調和の霊感』第1章の解説(2)

(何か霊感が降りてきたわ) 他の登場人物にガスパリーニ合唱長がいます。彼は実在した人物ですが、今後登場する事はないのかなと思います。 ヴィヴァルディは長年ピエタ慈善院で女子の合奏音楽指導をしました。その間に出来たのが膨大な協奏曲の数々です。…

音楽ミステリー小説『調和の霊感』第1章の解説(1)

(霊感は全然ありません) タイトルの『調和の霊感』はヴィヴァルディの協奏曲集のタイトルをそのまま使いました。この小説の根幹はヴィヴァルディの生涯、特に晩年ウィーンで客死した事実を元にしてあります。第1章はまだヴィヴァルディは登場していません…

アンナのデビュー(3)

(私はグレート・デンよ!) この時代の演奏スタイルは、現在のようなコンサートとは趣が異なっていた。つまりチラシやテレビの宣伝を見た人々が、チケットを買ってコンサート会場へ足を運ぶような時代ではないという事だ。なによりこの時代の多くの国では、…

アンナのデビュー(2)

(そろそろ僕もデビューを・・・) 曲が終わると、ピエタ合奏団で一緒に演奏した弦楽器の皆と、その演奏を見ていたパオラたち管楽器の皆が、新人のアンナに惜しみない拍手を送った。それはアンナが、次回のピエタ演奏会でデビューをする事が決定した瞬間でも…

アンナのデビュー(1)

(私もデビューします) アンナのピエタ・デビューはその一週間後だった。ピエタの仲間からは衝撃的な驚きをもって迎えられた。もちろんアンナのヴァイオリンの確かな技術においてである。 華やかで美しく歌われるキアーラのヴァイオリンに、アンナのヴァイ…

少年、ピーノ(2)

(少年といつも一緒よ❤) アンナが、アントニオとピーノが親子だと気づいたのは二人が同じ民謡を歌っていたからだけではなかった。確かにピーノは歌が上手だったが、それだけでゴンドラの船頭と造船所で働く少年が親子の関係が親子だとわかるはずがない。ア…

少年、ピーノ

(私たちも少年と一緒よ❤) 「あんたの犬かい?」 デンのリードを持った少年がアンナに言った。そしてアンナが肯くのを見てから、 「ここは、鼠を退治する為にたくさんの毒団子が置かれているんだ。ほらっ、あそことあそこにある白くて丸いやつだよ。あれが…

孤児犬デン、行方不明になる(2)

(お〜い、ついてきてるか〜?) アンナは控え目な大声で、デンを呼びながら広場付近を捜したが、デンはなかなか見つからなかった。しかしさすがに大きな仔犬のデンだった。アンナはデンの行方に関して多くの目撃証言を得た。しかも可愛い華奢な女の子が、と…

孤児犬デン、行方不明になる(1)

(逃げましょ、逃げましょ・・・) アンナはデンの様子を見ながら考え事をしていた。 (アントニオさんと会ったアントネッラは確信犯だと考えて間違いない。だとしたらアントネッラは、パオの部屋にあった仮装用の衣装がキャラの物だとわかっていた事になる…