少年、ピーノ


(私たちも少年と一緒よ❤)
「あんたの犬かい?」
 デンのリードを持った少年がアンナに言った。そしてアンナが肯くのを見てから、
「ここは、鼠を退治する為にたくさんの毒団子が置かれているんだ。ほらっ、あそことあそこにある白くて丸いやつだよ。あれがこの造船所の中にたくさん置かれてあるんだ。それをこの犬が食べたら死んでしまうんだぞ。本当に危なかったんだぞ。こいつクンクンしながらウロウロしていたんだ。だから僕がこいつを捕まえて、ここで飼い主が来るのを待っていたんだ。」
と言った。
「そうなの、どうもありがとう、ピーノ君。」
 アンナがお礼を言うと、その少年はアンナが自分の名前を知っている事に驚いた。
「そんなにビックリしなくてもいいわ。以前にお姉さまとここに来た事があったの。その時にあなたは民謡を歌っていたわ。あなたの歌がとても上手だったので覚えていたのよ。その時、誰かがあなたをピーノと呼んでいたのを、今思い出したの。」
「そうなんだ、でも僕の名前はピーノではないからな。ジョゼッペと言うんだ。小さい頃からここで働いているから、皆が僕の事をジョゼッピーノと言ったりピーノと呼んだりするんだ。」
「ピーノ、もしかしてあなたのお父さまの名前はアントニオではないの?」
「あんたたちにはビックリさせられっぱなしだよ。この犬は犬でリードを付けたまま突然現れウロウロするし、あんたはあんたで、初対面のくせに僕や父さんの名前まで知っているし、あんた何者なんだよ?どうして父さんを知っているんだい?」
「そうね、ごめんなさい。私はピエタ慈善院にいるアンナ・マリーアよ。これからは私の事をアンと呼んでね。私もあなたの事をピーノと呼んでいい?」
「あんた、これからも僕に会いにくる気なのかい?」
「私は『あんた』ではなく『アン』よ。」
「それでだ、アン。僕に何の用事があるんだよ?民謡でも歌ってもらいたいのか?」
「そうよ、私がヴェネチアで初めて会った人がピーノのお父さまなのよ。ゴンドラの上で民謡を歌ってくれたわ。ピーノも同じ民謡をここで歌っていたのよ。だから、もしかしてあなたたちは親子かも?と思ったの。」
 アンナは少し話をはぐらかした。今はピーノに具体的な事を話したくなかった。