孤児犬デン、行方不明になる(2)


(お〜い、ついてきてるか〜?)
 アンナは控え目な大声で、デンを呼びながら広場付近を捜したが、デンはなかなか見つからなかった。しかしさすがに大きな仔犬のデンだった。アンナはデンの行方に関して多くの目撃証言を得た。しかも可愛い華奢な女の子が、とぼけた顔でフラフラしている大きな仔犬を捜しているのだ。ヴェネチアの陽気なおじさんたちが黙っている訳がない。目撃を証言するだけでなく、アンナと一緒にデンの行方をたどって歩いてくれるおじさんもいた。あるおじさんは目撃もしていないのに一緒に捜してくれた。なんだかんだでアンナは6人のおじさんを伴ってデンを捜索する事になったのだった。
 おじさんたちは親切だったが、うるさいくらいに賑やかだった。犬の話からいろいろな国の犬の話になり、どこの犬は賢いだのバカだの話が尽きない。皆が同時に話をしているのになぜか会話が成立していた。アンナはそれが可笑しくてウフッと笑った。おじさんたちはアンナが喜んでくれていると勘違いしてますます饒舌に盛り上がっていった。アンナはそれがまるでヴィヴァルディの4つのヴァイオリンの為の協奏曲を聴いているように感じた。
 アンナたち一行は国営造船所に来た。そこでアンナたちを出迎えてくれたのは、能天気にもシッポを振って喜んでいるデンだった。いや正確に言うと、デンが歩きながら引きずっていたであろうリードを持った少年が、アンナたちを出迎えてくれたのだった。
 6人のおじさんたちはそれを見届けると、見つかってよかったと自分の事のように喜びながらワイワイと賑やかに去っていった。が、アンナの耳にはいろいろな言葉がいつまでも入ってきた。
(あの犬は相当でっかくなるぞ!)
      (あの娘よりもでっかくなるのか?)
(あの娘どころか、俺たちよりもでっかくなるかもな。)  (凄いなあ、それではまるで牛だ。)
(おう、このままワインでも飲んで行こうぜ。)
  (じゃあ請求書はピエタへまわしておくか?)
(ワハハッハ、そりゃいい考えだ。)
   (よ〜し、今日はあの娘とあの犬に乾杯だ〜)
(だったら今日はもう仕事は止めだ。)
(おう俺も仕事を休もう。)
(俺もそうしよう。)
(俺もだ)
・・・