2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

娘たちの謝肉祭(4)

(私は椅子の上でお話しするわ) 「だから・・・」 キアーラは言葉に詰まっているアントニオに言った。 「じゃあ、今日のゴンドラ代をタダにして。」 「え〜、これは半日分の稼ぎだぞ。」 「あら、じゃあ反省してないんだ。」 「だって三人分じゃないか。」 …

娘たちの謝肉祭(3)

(ちなみに私も娘よ) 「10年ぶりかしら、アントニオ。もう私の事を忘れたの?」 バシャっと水しぶきが上がったと同時にゴンドラが大きく揺れた。 「きゃっ!」三人娘が黄色い声で叫んだ。 アントニオは、落としそうになった櫂を慌てて持ち直しながら体勢…

娘たちの謝肉祭(2)

パオラが声にならない声を喉の奥からふり絞って叫んだ。明らかに狼狽していた。 「あ〜アッ、アントニオ〜。」 パオラの声は仮面で聞こえなかったのだろう。アントニオが丁重に手を差しのべながら三人の貴婦人をゴンドラに誘導した。 「今日はついているわい…

第3章 娘たちの謝肉祭

(謝肉祭へ出かけるわよ❤) ヴェネチアの謝肉祭の仮装は独特だった。 タブッロという黒い長いマントを被ってから、黒い横長の帽子を被る。若い女性だと黒いマスケラという仮面に白いヴェールをつける。アンナの分はキアーラが用意した。キアーラとパオラは自…

謝肉祭の広場で(6)

(デンはこんな感じでお留守番) 三人娘たちは、ピエタへ帰る途中もずっと無言だった。周りは謝肉祭で浮かれているのに、彼女たちの上にいる天使たちだけが難しい顔をしながら考え事をしていた。 その中で一番難しい顔をしていた天使が、ポツンと気のない矢…

謝肉祭の広場で(5)

(私はお利口さんで椅子に座って聞いてます) 老マエストロのあまりにもおぞましくて怖い話に、三人娘は声もなかった。周りの謝肉祭の喧騒が、彼女たちの耳の奥で空虚に鳴り響いていた。その中でアンナがやっと口を開いた。彼女の目には涙が潤んでいた。 「…

謝肉祭の広場で(4)

(ストラドってこんな顔?) 「そうだとしたら、もっと変じゃない。だってアントネッラもその水が入った容器を使っていたのでしょう?なぜアントネッラだけ何も起こらなかったの?」 アンナの問いに一同が沈黙した。 少し間があって老マエストロが言った。 …

謝肉祭の広場で(3)

(旅先の広場で) 「アントネッラという娘か?今後その娘をクララに近づけない方がいいだろうな。」 その老マエストロの言葉にアンナが訊いた。 「なぜアントネッラが怪しいのですか?」 「一番近い存在だからじゃ。もしトファナ水の中毒だと仮定して、誰が…

謝肉祭の広場で(2)

(私たちも広場へおでかけよ) ピエタで起こった昨夜の出来事は、全てパオラが話した。クララの様態が悪く中毒の疑いがあると話はしたが、その毒が砒素だとはっきり言わなかった事に、アンナはキアーラに対するパオラの配慮を感じたのだった。 「それは砒素…

謝肉祭の広場で(1)

(ここは私が遊ぶ広場だよん) いつものお昼休みのお茶の時間だったが、今日は場所が違った。老マエストロが、せっかくの機会だからと、聖マルコ広場に面したレストランの席を予約してくれていたのだった。老マエストロの言う『せっかくの機会』とは何だろう…

クララの病気(4)

(最近のデンの活躍にルナは上機嫌) パオラがドアを開けると、そこにキアーラが立っていた。だが彼女だけではなかった。それを見たパオラが、ベッドで腕組みをして考え事をしているアンナに声をかけた。 「お〜いアン、お坊ちゃまが来たぞ~」 「そうよ、私…

クララの病気(3)

(ルナピンスキーとライヴィッチ) パオラがベッドから立ち上がって、先程までキアーラが座っていた椅子を、アンナの座っている所まで持ってきて腰かけた。 そしてアンナを覗きこむように前傾になりながら小声で言った。 「化粧水の毒の正体は砒素よ。」 「…

クララの病気(2)

大騒ぎから2時間後、三人は再びアンナの部屋にいた。 キアーラは椅子に腰かけて足を組み、腕組みをしていた。アンナとパオラはベッドの端と端に腰かけていた。2時間前と違ったのは、三人の表情が暗く曇っていた事だった。 沈黙が続いた。アンナとパオラは…

クララの病気(1)

(疲れた〜) アントネッラの部屋のベッドにクララが寝かされていた。とても顔色が悪く、アンナやパオラは話しかける事さえ躊躇した。 アントネッラはキアーラと一緒に教会の指示で医者を呼びに行った。その間、残されたアンナたちはずっと無言でクララを見…

アンナの部屋で(7)

(ルナのかわいいお部屋よ) 「だからストラドが私に言ったじゃない。もしニスの秘密がわかったら、私の為にバッソンを作ってやろうって。」 アンナとキアーラは声を揃えて言った。 「だから?」 「も〜う、その時のストラドの言葉を覚えてないの?彼は、バ…

アンナの部屋で(6)

(酔いつぶれています) アンナが言った。 「そう、キャラの言う通りよ。私がヴェネチアに来た時、あまりの湿気に驚いたの。この湿度では弦楽器の為に良くないって思ったわ。だけどストラドを貸して頂いた時、この空気の中で響いていたのに驚いたし、今日ま…

アンナの部屋で(5)

(なんですか〜?) キアーラは弓の毛を弛めながら言った。 「アン、これは今まであなたが使っていたヴァイオリンだよね?」 「ええ、キャラから頂いた楽器よ。」 アンナがそう答えると、キアーラは、今度はヴァイオリンの弦を弛めながら言った。 「私が以前…

アンナの部屋で(4)

(どこでも僕の部屋になるんだよ) 今度はキアーラがアンナに訊いた。 「アン、そういえばあなた、結局ストラドにアマティのヴァイオリンをしばらく使いたいと言ってたわね?」 「ええ、私の次のヴァイオリンが仕上がるまで、アマティを使いたいとお願いした…

アンナの部屋で(3)

(ここは僕の部屋だよ) パオラがアンナの思索の時間を破った。 「ストラドにプレーテ・ロッソがウィーンへ行くと言ったそうよ。それでストラドは何をしたと思う?なんとヴァイオリンの設計図をプレーテ・ロッソに預けたそうよ。」 「どうして設計図を?」 …

アンナの部屋で(2)

(ライヴィッチの部屋で・・・モナ) 「まず、なぜアンは、ジローが妹と一緒だと知っていたの?」 キアーラの問いにアンナが答えた。 「ピエタでは、先生が駆け落ちをしたという噂だけど、街の人たちは、先生がジローさんと彼女の妹を連れていった、と誰もが…

アンナの部屋で(1)

(私の部屋よ) 三人娘たちはアンナの部屋に集まっていた。 「だからアンナ・ジローをプレーテ・ロッソに紹介したのがストラドだったのよ。しかも一緒に演奏旅行をするようにそそのかしたのも、なんとストラドだったのよ。ビックリでしょう。でも変な噂はな…