アンナの部屋で(6)


(酔いつぶれています)
 アンナが言った。
「そう、キャラの言う通りよ。私がヴェネチアに来た時、あまりの湿気に驚いたの。この湿度では弦楽器の為に良くないって思ったわ。だけどストラドを貸して頂いた時、この空気の中で響いていたのに驚いたし、今日までの約5ケ月の間で、この楽器はどんどん響きが良くなってきたわ。
 今日、ストラドから『秘密はニスだ』って聞いた時、それだと勘づいたの。ストラドのニスの秘密は、湿度に強いニスなんだ、ってね。」
 キアーラが言った。
「だからアンはアマティを試したくなったのね。そうだとしたら、アマティはヴェネチアの湿度で逆に音が悪くなるのでは?ってね。それで、本当にそうなったらアンの仮説は証明されたって事ね。」
 パオラが感心したような声で言った。
「なあ〜るほど、それでキャラが言ったんだ。いい趣味ではないってね。でもアンの憶測が正しいのであれば・・・というより正しいぞって、既にストラドが言ったようなものだよねえ?」
 アンナとキアーラは、パオラの唐突な発言に戸惑った。それはパオラが何を言いたいのか、二人はまだ理解できなかったからだ。こんな光景とこんな機会は滅多にあるものではない。だからパオラはそんな二人の様子を面白がって話を続けた。