アンナの部屋で(2)


(ライヴィッチの部屋で・・・モナ)
「まず、なぜアンは、ジローが妹と一緒だと知っていたの?」
キアーラの問いにアンナが答えた。
ピエタでは、先生が駆け落ちをしたという噂だけど、街の人たちは、先生がジローさんと彼女の妹を連れていった、と誰もが知っているわ。」
「それは何を意味する?」
「それは・・・正確な情報を曲げてまで、悪意ある噂を流した人物がピエタにいるという事だと思う。」
「これはパオと同じ質問だけど、なぜストラドがプレーテ・ロッソに、ジローを連れていくようにそそのかしたのだと思う?」
「それは、先生がいくらヴァイオリンの名手だとしても、所詮一楽師でしかない。それに比べて、オペラ歌手は音楽の花形よ。しかもカストラートとソプラノ歌手は別格のスターよ。ソプラノ歌手であるジローさんを連れていけば、先生は音楽興行家としても人脈が広がるわ。それにジローさんが歌う曲が先生の作曲だと紹介すれば、先生の株がもっと上がるはず・・・」
「あなたの言うとおりの事をストラドも言ったわ。だったらもうわかったわね?なぜプレーテ・ロッソがヴェネチアを出ていったのか?そして彼らはどこへ行ったのか?」
「なぜかはわかっている。先生はヴェネチアに居づらくなったからでしょう?でもそれは先生の立場からみたことでしょう?ピエタや教会はなぜ先生を疎ましく思っているのでしょうか?私はそれがわからない。」
「それは多分、プレーテ・ロッソが貴族の出身ではないからでしょう。」
「それだったら、先生がまだ若い頃からピエタが雇う事はなかったのでは?」
「彼が有名になりすぎたのでは?」
「音楽の同業者が嫉妬するならともかく、先生は教会に多大なる利益をもたらしているのよ。その先生を教会が追い出すなんて考えられない。」
 そこへパオラが口を挿んだ。
「お〜いキャラ〜、逆にアンから質問されてるぞ〜」
「そうだったわ、いけない・・・いつの間にかアンのペースになってしまったわね。で、アンは今までの話から、プレーテ・ロッソがどこへ行ったのかわかったの?」
「どこへ?・・・わからないわ。」
「アンでもわからなかったのね。ウィーンよ。」
「ウィーン・・・」
(ウィーンって、あの大貴族ハプスブルク家の君臨する大都市ウィーン?・・・あっ、あの時、お父さまを無理矢理に乗せていった馬車のあの紋章・・・どこかで見た事があると思っていたあの紋章は確かにハプスブルク家のものだった・・・だったらなぜ、ハプスブルク家がお父さまを拉致して殺したのだろう?お兄さまは何を知っているというの?どうして私を匿ったのだろう?私がハプスブルクの紋章を見た事と関係があるのだろうか?そして先生はなぜウィーンに?)