謝肉祭の広場で(4)


(ストラドってこんな顔?)
「そうだとしたら、もっと変じゃない。だってアントネッラもその水が入った容器を使っていたのでしょう?なぜアントネッラだけ何も起こらなかったの?」
アンナの問いに一同が沈黙した。
 少し間があって老マエストロが言った。
「砒素嗜食者じゃ。」
 また三人娘のハーモニーが周りの喧騒に響いた。
「砒素嗜食者?」
「そうじゃ、砒素を常食している者をそのように言っておる。」
 キアーラが言った。
「だってストラド、砒素を食べたら死ぬんでしょう?なぜ常食できるのよ?」
 老マエストロは真顔で三人を見ながら言った。もっとも娘たちには、睨まれているようにしか思えなかったが・・・
「確かに一回で多量に服用すると死ぬ。だが、砒素は極めてわずかな量を常食する事によって、体内に免疫ができるとも言われておる。それが砒素を嗜好して常食する者、すなわち砒素嗜食者じゃ。お前たちは、この事が何を意味するのかわかるかな?」
 三人は黙って揃って首を振った。
「砒素嗜食者の最終目的は二つある。一つは美への終着点じゃ。自分の身の危険を顧みないで、白い肌と細い体を手に入れたいという欲望のな。だが、こちらは自ら受け入れた害だから可愛いものじゃ。おぞましいのはもう一つの最終目的じゃ。砒素嗜食者はその免疫力を高めながら、砒素の量を少しずつ増やしていくのじゃ。そしてターゲットの相手と同じ食事をするのじゃ。自分は免疫ができているが、相手は確実に砒素が体内に蓄積していく。いつも同じ食事を摂っているので、相手も周りの者も誰からも疑われない。そのうちにターゲットの相手は死ぬ。そうじゃ、この完全犯罪こそが嗜食者の最終目的なのじゃ。」