謝肉祭の広場で(5)


(私はお利口さんで椅子に座って聞いてます)
 老マエストロのあまりにもおぞましくて怖い話に、三人娘は声もなかった。周りの謝肉祭の喧騒が、彼女たちの耳の奥で空虚に鳴り響いていた。その中でアンナがやっと口を開いた。彼女の目には涙が潤んでいた。
「アントネッラがそこまでひどい事をするとは思えないし、なぜ彼女はクララにそんな事をしたというの?」
 アンナの純粋な問いに、誰もが答えに窮した。
 老マエストロが静かに話した。
「そうさ、誰もがわからない事ばかりなのじゃ。だからこそ、わしがお前たちにこうして話しておるのじゃ。お前たちが信じようと信じまいと、トファナ水は存在する。しかもここヴェネチアから多くの国へ流通しておるのじゃ。なんの関係もなかったピエタ孤児院の娘たちが、実際にトファナ水を使っていた。そのピエタ孤児院は、合奏団の質が高くなるにつれ、孤児ではない者たちが集まってくるようになった。それが今のピエタの現実なのじゃ。
 わしたちはお前たちを守ってやりたいと思っておる。純粋に音楽を追求する者、すなわちその者たちこそが人間の理性の結晶であり、神に祝福される存在なのだからな。」