クララの病気(2)


 大騒ぎから2時間後、三人は再びアンナの部屋にいた。
 キアーラは椅子に腰かけて足を組み、腕組みをしていた。アンナとパオラはベッドの端と端に腰かけていた。2時間前と違ったのは、三人の表情が暗く曇っていた事だった。
 沈黙が続いた。アンナとパオラはキアーラの口が開かれるのを待っていたが、彼女は東奔西走して疲れ切っていた。だからアンナが切り出した。
「可哀想なクララ。あんなに弱っていたなんて信じられない。私がピエタへ来た頃は、彼女はいつも明るくて元気だったのに。」
「そうよねえ、最近元気なかったものね。しかも目に見えて痩せてきたから心配していたの。だって、私たち同じ木管楽器だから、いつも同じ部屋か隣の部屋で練習しているのよ。だからすぐに気がつくわ。クララは声をかけるといつも明るく笑っていたのに、最近あまり笑わなくなったなあ、って思っていたの。ねえキャラ、クララは大丈夫だよねえ?」
「う〜ん、医者は原因がわからないって。安静にさせて様子をみて診断しようという事になったわ。以前流行った病気に様子が似ているとも言っていたわ。」
キアーラの言葉にアンナが訊いた。
「以前流行った病気って何?」
「毒による目眩嘔吐の症状よ。」
「毒?それってどういう事なの?」
「昔ね、化粧水がピエタで流行ったの。色が白くなるからって、女性から大人気だったのよ。その時に目眩や嘔吐で倒れた娘が続出したの。しかも比較的若い10代の娘が多かったのよ。」
「それがその毒の症状だったのね?」
 好奇心満載のアンナにパオラが言った。
「そうなのよ。でもそれが中毒症状だとは誰も言わなかった。医者は、たしか化粧水の過使用によるものだとの見解だったわ。」
「でもキャラは、今私に毒による症状だと言ったわよね?」
それにもパオラが答えた。
「キャラはアントニオさんから、その化粧水は毒だと言われたのよ。」
 アンナは既にその事をピーノから聞いて知っていた。しかしアンナは知らないふりをして、キアーラに訊いた。
「アントニオさんは、どうしてその化粧水を毒だと言ったのでしょうか?」
「私には詳しくは教えてくれなかったわ。まだ若かったから仕方がない。ただ彼は私に、絶対にその化粧水を使うなと、いつも言っていたのよ。」
キアーラがそう言うと、椅子から立ち上がりながら、
「今日はいろいろと大変だったので疲れたわ。私はもう休むわね、おやすみ。」
と言って、アンナの部屋から出ていった。
 アンナとパオラはしばらく沈黙していた。
 廊下からキアーラの力無い足音が聞こえていた。
 外で鳴いている小鳥の声が妙に耳についた