娘たちの謝肉祭(3)


(ちなみに私も娘よ)
「10年ぶりかしら、アントニオ。もう私の事を忘れたの?」
 バシャっと水しぶきが上がったと同時にゴンドラが大きく揺れた。
「きゃっ!」三人娘が黄色い声で叫んだ。
 アントニオは、落としそうになった櫂を慌てて持ち直しながら体勢を整えて言った。
「キャラかい、本当に君か?」
 キアーラは仮面を外しながら言った。
「そうよ、アントニオ。あなた少しガラが悪くなったけど変わってないわね。」
「キャラこそ、ぜんぜん変わってないよ。むしろ若くなったのではないか。」
「やめてよ、そんなゴンドラの船頭的挨拶はいらないわ。それより私の可愛い妹たちを紹介しておくわ。」
「もしかして・・・」
「そうよ、パオラよ。」
 キアーラから紹介されたパオラは仮面を外して言った。
こんにちはアントニオ・・・さん。」
 キアーラがパオラに、
「こんな男、さん付けしなくてもいいわよ。」
と言うと、アントニオに向かって
「それからこちらが・・・」
と言おうとしたら、狼狽しているアントニオが慌てて強い口調でキアーラに言った。
「もしかしてアントネッラではないだろうな?」
 キアーラは
「そんな訳ないでしょう。なに言ってるのよ。あり得ないでしょう。」
と応じ、すぐにパオラが言った。
「あ〜ら、よくアントネッラの名前を覚えていたわよね。怪しいわ、ねえキャラ〜どう思う?」
 キアーラは無言だった。その無言がアントニオにはプレッシャーになったのだろう。
「こらパオラ、バカな事を言うな。あの娘とはあれ以来会っていないぞ。聖マルコに誓ってもいい。あんな事があってキャラにふられたのだから、あの娘の名前を忘れられる訳がない。本当に後悔しているんだ。」
アントニオがそう言うと、キアーラは、
「どう後悔しているのよ?」
とアントニオを問い詰めた。