娘たちの謝肉祭(4)


(私は椅子の上でお話しするわ)
「だから・・・」
 キアーラは言葉に詰まっているアントニオに言った。
「じゃあ、今日のゴンドラ代をタダにして。」
「え〜、これは半日分の稼ぎだぞ。」
「あら、じゃあ反省してないんだ。」
「だって三人分じゃないか。」
「アントニオはパオに対しても裏切ったのよ。パオはあなたに会うのが楽しみだったの。あの日ずっと泣いていたわ。パオは私と同じ量だけの涙を流したの。少しは反省なさい。」
「わかった、パオの分もしかたがない。だがもう一人のこの娘は関係ないぞ。」
「おい、浮気者のアントニオ!往生際悪いぞ。この娘も私の大切な妹なの!」
 二人の会話のやりとりを、アンナとパオラはとても微笑ましく見ていた。キアーラは言葉では怒っていたが、顔は悪戯っぽく笑っていて幸せそうだった。
 パオラが楽しそうにキアーラに加勢した。
「あ〜らアントニオ、この娘もあなたと深〜い関係があるのよ。」
 パオラの意味ありげな言葉は、アントニオに狼狽が治まる機会を与えなかった。アントニオは明らかに不自然な動きで、足元にあるケースなどを蹴飛ばしながら言った。
「なんだって、わしはこんな若い娘なんか知らんぞ。」
 パオラはアンナに向かって言った。
「アン、さあ仮面を外して、アントニオにその美しい顔を見せてやりなさい。」
 アンナは言われるままに仮面を外した。
「ねえ、覚えていない?この娘は真夜中の真っ暗なヴェネチアの海の上で、不幸にもアントニオの歌をさんざん聴かされたそうよ。どう、思い出した?」
 アントニオは少し考えてから、
「ああ〜、あの時の娘か〜。孤児院へ入るとは聞いていたが、まさかキャラたちとこうして一緒にいるとはなあ・・・よかったよ。うん、本当によかった。」
と、安堵したように言った。
「でしょ。だからアンの分も当然ご祝儀でタダになるわよねえ?」
 パオラにそう言われてアントニオは観念した。