娘たちの謝肉祭(5)


(おお、これが大運河か〜んなわけないな)
「さあさあお嬢さん方、まだまだ時間がありますぜ。どちらに行きましょうか?」
 アントニオは半ば自棄になっていた。身から出た錆とはいえ、過去に愛し合った女が目の前にいるのだ。まさしく蛇に睨まれた蛙の心境だった。当然アントニオの方が睨まれたデブ蛙だ。
 そして睨んでいる蛇が口を開いた。
「アン、どこか行ってみたい所はない?」
「私、いつか聖ジョルジョ・マジョーレ教会へ言ってみたいと行ってみたいと思っていたの。」
「はい、アントニオ、そこへお願い。」
「えっ、なんだって?どこだって?」
「あなた船頭ならちゃんと聞いてなさい。聖ジョルジョ・マジョーレ教会がある島よ。」
「なんだって、ぜんぜん方向が違うじゃないか。この水路はリアルト橋に向かっているんだ。マジョーレ島は反対の方向だ。」
「別にいいじゃない。今日は時間がたっぷりあるし、このまま先へ向かってから大運河を通って戻りましょう。それから聖ジョルジョ・マジョーレ島へ渡りましょう。わかった、アントニオ?」
 その間、アンナとパオラは二人の会話を邪魔しないように小運河沿岸の美しい家並みを眺めていた。パオラはアンナに小声で解説してくれた。
ヴェネチアはねえ、大小180の運河が通っていて、それに400もの橋が架かっているのよ。小さなお店も多いけど、小さな造舟所も目につくでしょう。大運河に出るとガラッと雰囲気が変わるわよ。大商人や貴族の建物が建ち並んでいるのよ。」
 パオラは相変わらず博識だった。そこへアントニオが声をかけてきた。
「お嬢さん方、ここを曲がると大運河だ。」