娘たちの謝肉祭(6)


(おう、ここが大運河か〜でもないなあ)
 パオラが言ったとおり、がらりと景色が変わった。確かに大商人や貴族の館が建ち並んでいた。それぞれは立派な建物なのだろう。だが、それらが小さく見えるくらい大運河はその名前以上に大きかった。ゴンドラから見える景色は本当に圧巻だった。その感動を察知したのか、アントニオは急に解説を始めた。
「いい眺めだろう。ここからだといろいろな島が見えたり消えたりするんだよ。島はざっと150は下らないだろうぜ。ここを聖マルコ広場の方へ向けてさらに先に進むと目的地の聖ジョルジョ・マジョーレ島だ。」
 キアーラがアントニオの解説を遮った。
「はいはい。私たちせっかく海の上にいるのだから、ちょっと人に聞かれたくない話でもしましょうよ。古傷をえぐるような話も大歓迎よ。ねえアントニオ。」
「な、なんだよ。どうもおかしいなと思っていたんだよ。今になってキャラがわしの前に現れる事自体がおかしかったんだ。ああ〜、なんでもっと早く気がつかなかったんだろう。今日は本当についてないぜ。」
「気がついたからってどうなっていたのよ。バカ言ってないで私たちに協力しなさい。という事でアン、あなたアントニオに訊きたい事がいっぱいあるんじゃないの?今が絶好の機会よ。遠慮なくどうぞ。」
 急にどうぞと言われても、質問帳をもってきている訳ではない。アンナは急いで頭の中の整理を始めた。踊っている音符を整理するのは早いのだが、今回はちょっと勝手が違いすぎた。
 そんなアンナを気遣って、キアーラとパオラはアントニオと雑談していた。ただその内容は、アントニオの奥さんの事が中心で、まさに古傷をえぐるような話ばかりだった。アンナは『わあ〜痛そう。』と思いながら、だんだん小さくなっていくアントニオに少しだけ同情した。そして早く自分が質問してあげないといけないと自覚した。