少年、ピーノ(2)


(少年といつも一緒よ❤)
 アンナが、アントニオとピーノが親子だと気づいたのは二人が同じ民謡を歌っていたからだけではなかった。確かにピーノは歌が上手だったが、それだけでゴンドラの船頭と造船所で働く少年が親子の関係が親子だとわかるはずがない。アンナは今までのキアーラやパオラと交わした会話の中から、徐々にアントニオとピーノの結び目が見えてきたのだった。
 キアーラの恋人だったアントニオはピエタの合唱団にいて、将来はオペラ歌手を目指していた程の声の持ち主だ。息子のピーノもその血が流れていても不思議はない。アントニオは付き合っていた女性が妊娠した為に、その女性と結婚した。キアーラが23歳の時だった。その子供がピーノだとすれば今、目の前にいる彼は12、3歳の歳のはずだ。だからアンナの中で、この親子がつながったのだ。アンナはピーノに言った。
「私の歳は15、だから私はピーノよりお姉さんよ。これからもこの仔のお散歩で時々来るからよろしくね。それからこの仔の名前はデン。ピーノもデンと仲良くしてやってね。」
 アンナはピーノからリードを受け取ると、ピーノに背を向けデンと一緒に足早に歩いた。
 後ろからピーノの大きな声が響いた。
「アンは僕よりお姉さんだと言ったけど、僕の歳までわかるのかい?」
 アンナは返事をしなかった。ピーノは呟いた。
「僕がアンより歳下だって・・・」
 ピーノはいつまでもアンナとデンの後姿を見送っていた。
「アンっていうのかあ、いい名前だなあ。可愛かったなあ。本当にまた来てくれるのだろうか?」
 いつもの怒号が飛んできた。
「こら〜ピーノ!サボってないか〜?ちゃんと手を動かしているだろうな〜?」