第2章『ストラディヴァリウスの秘密』


(私に秘密はありません)
  第2章 ストラディヴァリウスの秘密
「おお、愛するキアレッタ!元気だったかな?それにしても、あのバカでかい犬はどうしたのだ?」
 デンがピエタにやって来てから3ケ月が経っていた。確かに来た頃よりも2倍は大きくなっていた。
 キアーラは、デンの事を説明するのは面倒臭いと言わんばかりに話を変えた。
「マエストロ、会って欲しい娘がいるの。私と違ってとっても聡明な娘よ。ヴァイオリンの技術も素晴らしいわ。近い将来にはきっとピエタを代表するヴァイオリニストになっているわ。」
「それは楽しみじゃないか、キアレッタ。お前さんがそう言うのだから、その娘の実力に間違いはなかろうて、ヒャヒャヒャ。今日はヴァイオリン3挺とチェロ1挺を持ってきてやったぞ。ヴァイオリンの1挺はわしの師であるニコロ・アマティが作った名器だ。精華な音がするぞ。その楽器をその娘にくれてやったらいい。」
「わかったわマエストロ。その娘を読んでくるわね。本当に可愛くて賢い娘よ。マエストロはきっとタジタジになるわ。」
キアーラは笑いながらそう言うと、アンナを呼びに部屋から出ていった。

 すぐにキアーラがアンナを伴ってきた。
「おお、お前さんが噂の娘かい?まだ若いな。何歳だ?名前は何という?」
「アンナ・マリーアです。15歳です。」
アンナは自己紹介をしながら、その老人の表情や様子を観察していた。はっきり言って妖怪のような皺くちゃな顔をした老人にしか見えなかった。年齢も80歳は越えているようだった。」
(このお爺さま、一体何者?だってキャラは何も教えてくれないんだもの。)
 その皺くちゃなお爺さんが言った。
「そうか、本当にまだ若いな。キアレッタがピエタへ来た頃を思い出すわい。あの頃のお前さんは本当に可愛かったよなあ。」
「はいはい、今でも可愛いですけどね。それに私が『合奏の娘たち』に入った頃は、まだ10歳でしたよ。マエストロ、ボケるのはまだ早いですよ。今日は若いアンナとたくさん話をして、若さを吸い取って帰ってください。」
キアーラの言葉にアンナが反応した。
「キャラ、マエストロって?」」
「ああ、ごめんなさい。まだ紹介していなかったわね。ねえマエストロ、自己紹介する?それとも私が紹介しようか?」
「ああ、お前さんに頼もう。わしは長旅で少々疲れた。もう歳かなあ・・・」
「大丈夫!まだまだ若い若い。それでマエストロ、紹介は詳しい方がいい?それとも簡潔な方がいい?」
「わしは、長ったるいやつは嫌いだ。」
「はいっ了解しました。アン、こちらの方はヴァイオリンを製作している爺さんで、マエストロ・ストラディヴァリよ。」
「それだけかい!しかも名前が少々違うぞ。わしの名はストラディヴァリウスじゃ。まあいい。
 マリーア、今日持ってきたヴァイオリンを弾いてみてごらん。今まで弾いていたヴァイオリンと比べてみてもいいぞ。」
 アンナはキアーラからヴァイオリンを受け取るとしばらく試奏してみた。そして今度は自分が今まで弾いていたヴァイオリンをケースから出して、同じ旋律をいろいろな弓で弾いてみた。そして2つのヴァイオリンを交互に何度も弾き分けてみた。
 その間、キアーラと老マエストロは一言も発する事なく、じっとアンナのヴァイオリンの音色に聴き入っていた。老マエストロは微動だにしなかった。