ストラディヴァリウスのヴァイオリン(2)


(ライヴィッチも秘密はありませんよ)
「さっきも話したけど、確かにアマティは素晴らしかったです。あんなに豊かで柔らかな音色を今まで聴いた事がなかったわ。でも今まで弾いていた私のこのヴァイオリンは他のヴァイオリンとは全然違うの。この楽器を弾くと空気が共鳴するの。空気が共鳴するから建物全体が広がりをもって響いてくる・・・何がちがうのだろう?よくわからないけれど決定的な何かが違う・・・そんな気がする・・・」
「ヒャヒャヒャ、お前さん本当に面白い娘じゃのお。わしの前で、アマティよりもそのボロ楽器がいいと言い切るとは・・・さすがキアレッタが高く評価している娘だ。
 それではマリーア、2つの楽器の違いには当然気づいておるな?」
 老マエストロの顔が生き生きと輝いていた。キアーラもそれが嬉しかったし、彼女自身もアンナの口から出てくる言葉をワクワクしながら待った。
「はいっ、ストラディヴァリウス先生。大きな違いは2つあります。それは楽器全体の色合いと裏板の部分です。
 ヴァイオリンの裏板はカエデの木だと聞いた事があります。その裏板は普通一枚板で張られてあり、左右対称の木目模様が理想だと私たちは知っているわ。アマティはまさしく左右がよく揃った美しい木目をした板を使っています。一方、このヴァイオリンの裏板は、非常識にも2枚の板を使用する事で完璧な左右対称の木目を完成させているの。きっと同じ板を薄く2つにして開いたのです。だからヴァイオリンの裏板の中心をまっすぐに継ぎ目が入っています。
 あとは楽器の色あいだけど、色の違いはおそらくニスの違いですね。アマティの色は金色のような黄色いニスだわ。あの美しい黄色は多分蜜蝋のようだけど、それはヴァイオリンのニスの色としては珍しくないわ。それよりむしろ私が弾いていたヴァイオリンの方が、珍しい深紅色をしています。はじめてこの楽器を手にした時、かわった色だなあと思ったけど、すぐに珍しくないとわかったわ。だってピエタ合奏団の何人かは、こんな色のヴァイオリンを持っていたのだから。もちろんキャラもよ。そして今日、私ははっきりとわかったの。ストラディヴァリウス先生が言う、このボロ楽器こそストラディヴァリウス先生、あなたの楽器なのですね。」