デンとアンナとピーノ(1)


(私って大活躍!?)
 アンナはデンの行き先がわかっていた。デンは国営造船所がお気に入りだった。アンナも悪い気はしなかった。そこにはピーノという少年がいたからだ。いや、正確に言うとアントニオの息子であるピーノがいたからだった。アンナが国営造船所の方へ足早に向かっていると、案の定デンも嬉しげにシッポを振りながら向かっていた。アンナが精一杯の声で呼んだ。
「デ〜ン」
 デンは一瞬立ち止まり振り向けたが、またルンルンと歩きだした。アンナは決して大きな声ではなかったが、デンに聞こえていたのは確かだった。
「待て〜、待て!」
アンナの掛け声に、デンはシッポをだらりと下げて立ち止まった。
「なぜ勝手に行くの?ダメでしょ!」
 デンは情けない目つきでアンナを見た。
「もうすぐ国営造船所よ、一緒に行こう。」
 デンは嬉しそうな顔をしてシッポを振りながらアンナについてきた。三日に一回はここへ散歩しに来ている。そのうちの三日に一回はピーノに会う事ができた。会えばピーノは気さくに話をし、デンともよく遊んでくれた。だからデンもピーノが大好きだった。
「デ〜ン」
 向うから聞こえてきたのはピーノのよく通る声だった。ついこの前までは美しいボーイ・ソプラノだったピーノだが、最近は随分と声変わりが激しかった。ピーノの所までかなりの距離があった。アンナがデンのリードを放すと、デンは声の方へ疾風の如く駆けていった。
 それを見たアンナは独り言のように呟いた。
「やっぱり馬のようだわ。」