『調和の霊感』第1章の解説(2)


(何か霊感が降りてきたわ)
 他の登場人物にガスパリーニ合唱長がいます。彼は実在した人物ですが、今後登場する事はないのかなと思います。
 ヴィヴァルディは長年ピエタ慈善院で女子の合奏音楽指導をしました。その間に出来たのが膨大な協奏曲の数々です。この小説のタイトルにもなっている『調和の霊感』は作品3として12曲の協奏曲がまとまって作品集になっています。この作品集の面白い所は1番から12番までに4つのヴァイオリンの為の協奏曲、2つのヴァイオリンの為の〃、ソロ・ヴァイオリンの為の〃の順番にサイクルされている事です。小説にもかかれてあるように、この時代は合奏協奏曲という様式が一般的でした。これは弦楽合奏と2つのヴァイオリンとチェロの3重奏が対比しながら演奏するもので、今日のピアノ協奏曲などのスタイルとは全然違うものです。ですからヴィヴァルディも始めは、その合奏協奏曲のようなアンサンブルの協奏曲を創作していた事、そして徐々に独自のソロ協奏曲の創作に向かっていった事が『調和の霊感』の作品集から伺われます。そしてあの名曲『四季』が含まれている『和声と創意への試み』作品8の12曲ある協奏曲集が生れるのです。これもキアーラやアンナ・マリーアの存在があったからなのかもしれません。そして今日ではピアノやヴァイオリンなどの楽器を習得するのにたくさんの練習曲がありますが、この当時は練習曲なんてありませんでした。ヴィヴァルディの曲は音階や分散和音の連続からなっています。ですからヴィヴァルディの曲そのものがいい練習曲になっています。私はヴィヴァルディが意図的にそのような作風にしたのだと思っています。それはピエタ演奏会の存在が大きかったのだと思います。実際にピエタの存在がヴィヴァルディに膨大な協奏曲を書かせ、ヴィヴァルディの存在がピエタ慈善院の女子合奏団を歴史的にも有名な素晴らしい合奏団にしたのです。私の小説では音楽の部分で例えば【春】とか記してあります。できればその音楽を思い浮かべながら、あるいは聴きながら読んでいただければ、さらに楽しく読め、またキアーラやアンナの演奏の臨場感が伝わってくるのではないかと思っています。