アントネッラの部屋で(2)


(アントネッラ〜)
 アンナが、アントネッラの部屋を訪れたのは初めてだったし、アントネッラに面と向かってゆっくりと対話するのも初めてだった。
 二人は無難な会話から始まった。
 ピエタ演奏会でアントネッラの演奏が素晴らしかった事や、ヴィヴァルディの【五色ヒワ】がとても素晴らしい名曲である事を話した。合奏団をリードするコンサート・ミストレスを担当したのはアンナだった。アントネッラは、アンナのリードが良かったのでフルートが吹きやすかったし、合奏と独奏フルートのバランスもよかった、とアンナを褒めた。
 二人の話題がクララの事になった。アントネッラは気を悪くするでもなくクララが倒れた時の事をアンナに話した。
 アンナがお見舞いに訪れた時のクララの話では、その時は突然に倒れたのでよく覚えていないし、何か食べ物を口に入れたかどうかどうかも記憶にないという。アントネッラの話でも同様に覚えがないというものだった。はっきりとした明るい性格のアントネッラが、アンナに不愉快な表情を見せる事はなかった。アンナはもっと核心に踏み込んだ話題にもっていった。
「アントネッラは、化粧水がトファナ水と同じだっていう事は知っているわよね。」
 アントネッラは顔色を変えずに答えた。
「ええ、私はそれを今でも使っているけど、それがどうしたの?」
「だって、それって毒水なんでしょう?」
アンナがそう言うと、アントネッラはすぐに、
「キャラから聞いたのでしょう?彼女は皆に、化粧水は身体に悪いから絶対に使ってはいけない、っていつも言ってたもんね。だけど、その化粧水を使っている人はけっこういるわよ。だってお肌の色が白くなるのよ。白い肌は女性の憧れでしょう。」
と言った。アンナは心の中で(あなたにとって白い肌は男性の憧れだからではないの?)と思いながら、アントネッラに訊いた。
「トファナ水の話を聞いたのはアントニオさんからなの。アントネッラはアントニオさんを知らないって私に言ったわよね。アントニオさんはアントネッラがトファナ水を買いたがっていた、と話していたわ。」
 初めてアントネッラの表情が強張った。