アントネッラの部屋で(1)


(山ちゃん、自転車ごと溝にはまって顔がボロボロにすごいんだってよ)
 アンナはアントネッラの部屋の前に立っていた。
 その日に行われたピエタの演奏会で、アントネッラはフルート協奏曲【五色ヒワ】を見事に演奏したのだった。アンナはその演奏を賛辞する為にアントネッラを訪れたのだ。それなのにアンナは気が重かった。それは、ここへ来る前にクララの部屋へ見舞に寄ったからだった。アンナは、クララの話からは核心に迫る事は聞き出せなかった。その事が尚一層アンナの気持ちに様々な懐疑心を持たせた。そんなアンナの気持ちを知ってか知らずか、隣で大あくびをしている不届き者がいた。デンだ。アンナは場の雰囲気が和むようにデンを連れてきていたのだった。実際にクララはデンの訪問を大変喜んでくれた。
 アンナは思い切ってアントネッラの部屋のドアをノックした。
「は〜い、どうぞ。」中からはっきりした声で返事があった。