アンナとピーノ


(ライとルナよ❤)
 アンナはどうしても早くピーノに会いたかった。アントネッラと話した翌日、いつものようにデンの散歩を口実に国営造船所に向かった。アンナはピーノに対して弟のような感情を抱いていた。そしてなによりもピーノと会うのを喜んでいたのがデンだった。デンはピーノの姿を見ると、リードごとアンナの手を振り切ると、ウォンウォン吠えながらピーノの所へ走り出した。周りの大人たちも、それがいつもの光景なので、ただそれを笑って見ていた。ピーノは覚悟を決めてデンを待ち構えていたが、大抵はデンに押し倒された。顔はデンに舐められてベトベトになっていた。
「おうアン、この前の塗料の事だけど名前がわかったぞ。ウルシオールと言うんだ。」
 アンナはわかっていた事だが、ピーノの性格を考えて、知らなかったふりをした。そして適当に感激したようなふりをした。ピーノはそれに気をよくしたようだ。なぜなら彼はいつもより饒舌だった。ウルシオールの話から砒素の殺鼠団子や船の事までいろいろと話してくれた。つまり、ピーノはアンナの話術にうまく乗せられたのだが、それはそれでピーノは嬉しかったのだ。アンナはピーノと別れる際にさりげなく訊いた。
「ねえ、ところでピーノは何歳なの?」
「この前アンは、僕を自分より年下だと決めつけただろう。でも僕は15歳なんだ。だから僕はアンと同じ歳なんだぞ。わかったか!」
 アンナの脳裏に、協奏曲【冬】の木枯らしが吹きつけた。
 ピーノはさらに、凍えたアンナの心に歯音をたてるような事を言った。
「僕、もうアンに会えないかもしれない。父さんがアンに会ってはいけないって言うんだ。でも僕は、アンがここへ来てくれるのは大歓迎だ。またデンと散歩に来いよ。」
「そう、ありがとう。ところでお母さまはお元気なの?」
「母さんは僕がまだ小さい頃に家を出ていったよ。」
「それじゃあ、今はお父さまと二人暮らしなの?それとも・・・」
「そうだよ、父さんと二人っきりだよ。」
 アンナは別れ渋るデンを無理矢理引っ張ってピーノと別れた。デンが何度も振り返りながらフラフラとアンナについてきた。