アントニオのゴンドラで(5)


(ベッドの中は気持ちいいわ〜❤)
 アントニオはキアーラとパオラの話から、アンナがでかい犬を連れた女子に間違いないと確信した。そのうえで言った。
「ジョゼッペが、あっ息子の名前だ。あいつ最近、ピーノと呼ぶと怒るんでな。息子が言っていた塗料は、ウルシオールという中国で採れる塗料だよ。わしは今、震えが止まらないくらい驚いているんだよ。なぜならそのストラディヴァリウス先生ってやつも、同じ塗料に興味を持って、しかも少し分けてくれって頼まれたものだから、国営造船所に内緒で分けてやったんだ。」
「そうですか。ピーノから聞きましたよ。水に強くて高価な塗料だそうですね?」
「そうなんだ。その先生にも話したのだが、国営造船所ではウルシオール樹脂に鉄粉を混ぜて錆止めとして使うんだ。ウルシオールには他のワニスにない大きな特徴があるのだ。アンナ、君は他の樹脂などの天然ワニスを、どうやって乾燥させるのかわかっているかい?」
「普通は日陰の風通しのいい所で乾燥させるのでは?」
「その通りだ。しかしウルシオールはなんと水分に化学反応をおこして固まるのだ。だから湿気のあるヴェネチアの気候に適応するのだ。しかも海水と格闘している船の塗料としては最高の物だったのだ。」
 パオラは興奮して言った。
「じゃあ、秘密のニスの正体はウルシオールなのね。アン凄いじゃない。ついにストラドのニスの秘密を暴いたのね。」
 興奮したパオラの言葉を聞き流して、アンナはアントニオに訊いた。
「でもストラディヴァリウス先生は、どうしてヴィヴァルディ先生と一緒にアントニオさんに会いに来たのですか?」