アントニオのゴンドラで(3)


(ライヴィッチのベッドは気持ちがいいぞ❤)
 ずっと黙っていたキアーラだったが、アントニオのその言葉に反応した。
「そうだったの?私にはなにも言わなかったじゃないの。ゴンドラの船頭に転職したと、私に突然言っただけじゃない。」
「ああ、もしキャラに本当の事を話したとして君に何ができた?あの頃の君は、ピエタの看板ヴァイオリニストとして輝いていた。そんな前向きなキャラを愛していた自分が、そんな泣き言なんか言えるはずがないではないか。わしは自分の力で前向きに生きて行こうと思ったのだ。それにヴェネチアの海がなによりも好きだったしな。後悔はしていないさ。」
 パオラは二人の会話を聞きながら、運命の皮肉を感じて目に涙を浮かべていた。
「アントニオさん、ヴィヴァルディ先生は一人で造船所に来られたのでしょうか?」
そう訊いたのはアンナだった。アントニオは答えた。
「いや、一人じゃなかったんだ。それがどうしたのだ?」
「もしかしてストラディヴァリウス先生と一緒だったのですね。」
「どうしてそれがわかった?アンナ、君は一体何者なんだ!」
 明らかにアントニオの顔が、懐疑心と警戒心で満ちていた。
 パオラがその雰囲気を和らげようと腐心した。つまり、アンナがピエタに来てから今日までの出来事を、アントニオに要領よく説明したのだった。特にストラディヴァリとの会話や彼の宿題であった秘密のニスの事は特に丁寧に説明した。キアーラは、その時パオラを見ながら彼女に感謝した。アントニオも、パオラの話を聞きながら昔を思い出していた。アントニオもまたパオラを妹のように可愛がっていた頃があったのだ。すぐに人懐っこい昔のアントニオになった。