第二幕第三場

 結果的に正解だったのは神杉静江さんだけだった。
『ブラマンさん、楽しい問題をありがとうございます。そして皆さまのメールも楽しく拝見しておりました。おそらく、みなさまもわたくしと同じ思い(答え)だと察しておりましたが、どうやら違っているみたいですね。
 わたくしは、自分のブラームスへの想いを少しだけお話したいと思います。と、申しますのが、わたくしが60の手習いでピアノを始めたのは、先生の演奏会でブラームスの曲を聴き感動したのがきっかけでした。ブラームス晩年のピアノの小品は本当に美しいと思います。それらの曲集の全てが、ブラームスの人生とクララへの想いが綴られていると、その時のプログラムに書かれていました。あれからわたくしもブラームスの勉強を少々してきて、ブラームスと珠玉のピアノ作品集が大好きになりました。若きブラームスが尊敬するシューマンの死を見届け、(実際に、奥様であったクララですら面会謝絶の中、代わりにブラームスが見舞ったのだと知って驚きました。)その事が、若きブラームスの感性にどれ程の影響を与えたか、想像に絶するものがあります。そしてシューマンの奥様であったクララへの想いは、クララ自身も素晴らしいピアニストであった事を鑑みると、ブラームスのクララへの思慕は、師匠の奥様という尊重と大ピアニスト、クララへの敬愛、そしてなによりも純愛、いろいろな想いが葛藤となって渦巻いていたのだと思います。ですがブラームスの晩年のピアノ小品集は、それらの複雑な心の襞をそぎ落として本当に純粋な音だけを抽出させた素晴らしいピアノ作品に仕上がっています。それは封印したクララへの想いを音楽(ピアノ)によって浄化させたものだと思います。
 わたくしはブラームスとクララは一緒になるべきだったと思っています。せめて先生が、あのワンちゃん(バーニーズでしたか?)をもう一匹飼われて、是非ともヨハネスとクララが仲良く歩いている姿を、それがワンちゃんでもいいから見てみたいものです。
 わたくしのクララへのイメージは、清楚で美しく創造的で賢い女性なのですが、先生の飼われるクララはヨハネス同様にとんでもなくやんちゃな子、いや、おてんば娘かもしれませんね。
 ごめんなさい。おしゃべりが過ぎました。わたくしも先生の門下生としてみなさまと知り合いになれたのを、心から嬉しく思っています。また是非とも「赤ハリプロジェクト」に参加させてください。』
 私は神杉静江さんのメールを読みながら感動して涙した。