第三幕第一場『赤いはりねずみ』の面白き客達

 第三幕第一場 『赤いはりねずみ』の面白き客達
   第一夜 『赤ハリの金曜日の会』
 私とタア子は『赤いはりねずみ』のカウンター席に並んで座っていた。店内はお洒落なジャズが流れていた。それを気持ちよく聴いているのは私とタア子だけだ。他にお客さんがいないのは、開店休業状態だからではない。もう営業時間はとっくに終わっていた。まあ尤も私達は9時半からお店にいるが、その時からこの状況は変わっていない。しかも今日は金曜日だ。この状況はマズイのではないだろうか?ところが主の赤ハリ先生は暢気な事を言っている。
「今はこの位でいいのですよ。繁盛していたら何も考えられないでしょう。今は少しずつこの仕事に慣れていく時期だと思っています。」
(おいおい、慣れる時期に来たお客さんはいい迷惑ではないか?)
私がそう思った横で、やっぱりタア子が黙っていなかった。
「おいおい赤ハリ、それは客に失礼だよ。客は一度嫌な思いをすると二度と足を運ばなくなるよ。後悔しないようにいつも一生懸命頑張らなくっちゃ。」
「はい、そのように肝に銘じておきます。ところで今日、嬉しい話を持ってきたお客さんがいたのですよ。夕方開店前の仕込みをしていたら、一人の初老の男性が店に入ってきて十人程度の予約をしていきました。」
 赤ハリ先生のお店の、初めての団体予約に私達は喜んだ。タア子が赤ハリ先生に訊いた。
「凄いじゃない、やったね赤ハリ。で、その予約はいつなの?」
「いや、また予約しにくると言って出て行きました。」
 私は思わず言った。
「・・・それって、予約とは言わないのではないの?」
 タア子はもっと辛辣だった。
「赤ハリ、ダマされたんじゃないの?もうちょっと詳しく話してよ。」
 で、赤ハリ先生の詳しい話はこうだ。