アンナと兄フランツ(13)

「アンヌ、ありがとう。本当に、本当にありがとう。私は、お前をあらゆる危険から守っていきたいのだ。私は、お前には本当に済まないと思っている。・・・だからどうか私を信じて欲しい。」
「フランツ兄さん、私は覚悟していますわ。先程、家臣の方に馬車を頼んでいたのでしょう?私の為の馬車ですよね?私は、今度はどこへ行かされるのでしょうか?」
「うむ、私の伝手だが、ドイツのエッセンにいい修道院がある。もちろんお前がドイツを嫌っているのはわかっている。だがそこは、ハプスブルク家からもプロシア諸国などのキリスト新教からも距離をおいている素晴らしい修道院だ。アンヌはきっと平穏に幸せな人生を送る事ができるはずだ。」
「お兄さま、人の人生なんて自分の勝手な尺度で測れるものではありませんわ。私はお兄さまが喜んでくださるならそれで幸せです。きっとマリア・テレジア女王陛下も同じですよ。お兄さまはいつも幸せな顔をなさっていてくださいね。
 それからお願いがあります。」
「何だね?」
「エッセンの修道院へ行く前にバチカンへ行って、ミケランジェロピエタを見たいと思っています。」
「ああ、是非行っておいで。ついでにフィレンツェにあるもう一つのピエタも見ておくといい。それもミケランジェロが彫ったものだ。ここの大聖堂にある。」
「そうしますわ。あと一つお願いがあります。寄り道とは言えない距離がありますが、是非ともウィーンへ行きたいのです。」
「行ってどうするのだ?ヴィヴァルディの最後の地を見ておきたいのか?彼の墓は貧民病院の共同墓地の中にある。おそらく見つけるのは不可能だろう。」
「それでもヴィヴァルディ先生の最後の軌跡を追ってみたいのです。それにお兄さまが活動なさっている街でもあるのですから。決してお兄さまには迷惑をかけませんわ。」
「私が反対してもお前はウィーンへ向かうのだろう?勝手にするがいい。私は歓迎しないからな。」
「わかっています。」
 フランツとアンナは涙で抱擁し別れた。二人は、お互いに二度と再会する事はないとわかっていた。