ピエタの演奏会(2)


 次に登場したのはパオラだった。彼女のバッソンの抜けるような明るい音色と、速い音型を軽やかに吹ききる彼女の演奏もまた、ピエタで大人気だった。ところがこの日の彼女は少し趣が違った。カラッと乾いた明るい音色が持ち味だったパオラのバッソンは、チェロの音と聞き間違えるくらい、しっとりと落ち着いた音色で始まった。アンナはその理由をすぐに理解したが、パオラの音に慣れている聴衆は戸惑っただろう。なにより昨日の練習まで、その音に慣れていた団員たちこそ不思議そうな顔をしていた。しかし聴衆も団員も、戸惑いから感銘に変わるまで、そんなに時間はかからなかった。パオラの明るい音色の本質は変わらなかったのだ。しかもゆったりした第2楽章は、艶やから響きで哀愁ある旋律を歌いあげた。第3楽章を待つまでもなく聴衆は深く感動していた。アンナも感動していた。パオラはストラドの楽器で吹いていたのだった。新しい楽器をすぐに吹きこなす事は容易ではない。パオラは今朝、新しいバッソンを相当に吹きこんだはずだ。そんな彼女の努力と彼女のストラドに対する想いに、アンナは感動した。
 パオラの演奏が終わると、ピエタの聴衆は総立ちだった。拍手がいつまでも鳴りやまなかった。