ピエタの演奏会(1)


 翌日のピエタ合奏団の演奏会は大変な活況だった。当然だ、ヴィヴァルディが6年ぶりにピエタで演奏するのだ。しかも今や世界中で有名になった名曲【四季】を、彼が独奏で全曲演奏するというスペシャル・プログラムだった。会場は通路いっぱいに聴衆で溢れて、物凄い熱気に包まれていた。
 一方、演奏する側も静かな緊張に包まれていた。それは活況になった会場のせいだけではない。そこにストラディヴァリウスがいたからでもない。今日が、彼と同じ空気を感じる最後の日になる事を、ピエタの誰もがわかっていたのだった。ヴィヴァルディをはじめ、合奏の娘たち全員がストラディヴァリウスの為に最高の演奏をしようと誓っていた。
 最初はアントネッラのフルート独奏で協奏曲【海の嵐】だった。彼女の超絶技巧的な演奏は昔から定評があった。その彼女も35歳になっていた。彼女の安定した技巧は、第1、第3楽章の速いテンポでいかんなく発揮された。この曲の嵐の描写は、もともと速く演奏したがる彼女の技巧によって、迫力ある素晴らしい音楽になった。聴衆は彼女の熱演に熱狂した拍手を惜しみなく送った。