ヴィヴァルディ(3)


(いえいえ、こんな顔でしょう)
 アンナを、キアーラは改めてヴィヴァルディに紹介したのは、その日の夜だった。
「プレーテ・ロッソ、紹介しますわ。彼女がアンナ・
マリーアですよ。お聴きになられたのなら蛇足になりますが、ヴァイオリンの腕も確かですわ。」
 二人はヴィヴァルディの部屋で改めて彼と対面していた。
「顔を見てすぐにわかったさ。今日は君たちの演奏をゆっくりと聴かせてもらったからな。それに君の名前は既にヴェネチアでは有名だろう。私はオペラの公演でヴェネチアにはよく滞在していたのだよ。」
 キアーラは驚いたように言った。
「それならなぜ、その間にピエタに来てくださらなかったのですか?」
「ははは、時間がなかったのさ。それに、君たちと中途半端に関わったら、かえって教会関係者に迷惑がかかるだろう。」
「だったら、今度は本当にピエタに戻ってきてくださったのですね?」
「ああ、そうだよ。キアレッタには本当に心痛をかけたな。でも君がいたからこそ、私は自由に音楽活動ができたのだ。そうだ、君へのお詫びとマリーアへの挨拶を兼ねて、来週の演奏会では私がヴァイオリン独奏をして【四季】の全曲を演奏しようではないか。」
 これにはキアーラよりアンナが喜んだ。
「本当ですか?ヴィヴァルディ先生。私・・・先生に会いたくてずっと待っていたのです。私、先生の演奏が聴けるなんて、最高に嬉しいです。」
アンナはそう言うと感情を高ぶらせて涙を流した。それを見ていたキアーラもまた、もらい泣きをした。
「おいおいマリーア、何を言っているのだい。私の演奏を君が聴くのではないぞ。君がコンサート・ミストレスとして合奏団をリードして演奏するのだ。」
 驚き戸惑っているアンナの隣で、キアーラが嬉々として言った。
「それは名案ですわ、プレーテ・ロッソ。私も先生とアンの共演を聴くのが楽しみですわ。」
 ヴィヴァルディは、そのキアーラをもたしなめるように言った。
「バカモノ、君も何を言っておるのだ。君はマリーアの隣で弾きなさい。それからバッソン協奏曲とフルート協奏曲をするから皆に伝えておきなさい。ただし・・・あのクララという娘のオーボエ協奏曲は止めておこう。私の影が薄くなるからな・・・」
 二人は大笑いしながら元気よく返事した。
「は〜い、マエストロ!」